与党の大醜態「年金受給者5000円給付」撤回の裏側 バラマキ批判におびえて、責任のなすり合い

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このため、今回も「一律給付」は公明の発想と受け取る向きが多かった。自公幹事長の茂木、石井啓一両氏が政府に申し入れた段階では、「茂木氏が公明党の立場に忖度した」(自民幹部)との見方が広がった。

ただ、財務省は「寝耳に水」(幹部)で、「国民からも参院選目当てのバラマキと受け止められる」(同)と反発。与党内でも「かえって票が減る」(自民選対)との声が相次ぎ、わずか2週間で事実上の撤回を余儀なくされたのが実態だ。

“主犯”視された公明党は「茂木氏が持ちかけた」(政策担当幹部)と不満を表明。「都合が悪くなると公明のせいにするが今回は違う」(同)と不満たらたら。これに対し茂木氏も「何かに限って対策を打つのではないと何度も言ってきた」と釈明に追われた。

そもそも、公明党にとって夏の参院選は「党勢維持を懸けた正念場」(幹部)。しかも、3月29日にはコロナ対策を巡って貸金業法違反に問われた元同党衆院議員の遠山清彦・元財務副大臣に対し、東京地裁が懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

この判決について山口那津男公明代表は同日の記者会見で、「このような事態に至ったことを深く心から反省し、国民の皆さまにおわびを申し上げたい」と沈痛な表情で謝罪。同代表周辺も「参院選への悪影響は避けられない」と肩を落とす。

改めて自公“すきま風”が浮き彫りに

こうした同党の窮状が、今回の「5000円給付」案の与党内の責任のなすり合いにつながっているのは否定できない。自民党も、「参院選勝利のための自公両党の『相互推薦』を公明党に頼み込んだ負い目」(自民選対)があり、「どちらが“主犯”かの真相はまさに藪の中のまま」(同)で終わることになるのは確実だ。

ただ、「今後は岸田首相と山口代表という与党のツートップの指導力が厳しく問われる」(自民長老)ことは間違いない。それだけに今回の「5000円給付」騒動は、岸田政権での“自公すきま風”の深刻さを浮き彫りにしたともいえそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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