与党の大醜態「年金受給者5000円給付」撤回の裏側 バラマキ批判におびえて、責任のなすり合い

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その一方で、後者については自民の政策担当責任者の高市氏が「もう事務的にも間に合わなくなったので、この話はなくなった」と言明。生活に困窮する高齢者への支援は「今後、ゼロベースで議論する」と白紙で再検討する意向を明らかにした。

与党内では高市氏を筆頭に「5000円一律給付」案を今後の議題対象から除外すべきだとの声が多く、「白紙イコール中止」との見方が支配的だ。

今回、与党が同案を提起したのは、公的年金の支給額が4月から減額になることを踏まえた年金生活者への救済が狙い。具体的には、生活を支える年金支給額1人当たり約5000円となることから、その分を「補填」するためで、住民税非課税で臨時特別給付金の受給対象世帯を除く年金受給世帯への一律支給というスキームだった。

そもそも年金額は、物価や現役世代の賃金の変動などに伴い、毎年度改定され、2022年度は賃金の減少に合わせて0.4%減とすることが今年1月に決まっている。ただ、原油価格の高騰などで2月以降消費者物価指数は前年同月比で0.6%と急上昇し、ウクライナ情勢でさらなる上昇が確実視されるため、同案が年金生活者への救済措置として急浮上した。

給付事務費700億円に批判殺到

3月15日に自公両党の幹事長らが同案の実現を政府側に申し入れた際は、岸田首相も「しっかり対応したい」と応じて、いったんは実現の可能性が強まった。

しかし、約2600万人とされる年金受給者への一律給付ともなれば、収入の有無を無視した対策となり、5000円という給付額自体が「救済の効果が少ない」のも事実。しかも、給付事務費に約700億円が必要とされたことが「税金の無駄遣い」との批判を拡大させた。

同案について与党側は、当初から年度内の3月中に2021年度予算の予備費からの支給を決め、参院選前の給付実現を目指していたとされる。しかし、自公両党の提案が公表されると同時に、メディアも含めたバラマキ批判が急拡大したことが、高市氏の「撤回」発言につながった。

2年以上前にコロナパンデミックが始まって以来、この種の「一律給付」を主導してきたのは公明党だ。安倍晋三政権下の2年前には、当時の自民党政調会長だった首相が主導して閣議決定までした収入減少世帯限定での現金30万円給付が、公明党と当時の二階俊博自民幹事長の巻き返しで、全国民一律10万円給付に変更された。

さらに、昨年秋の岸田政権発足後も、その前の衆院選で公明党が「公約」として掲げた「ゼロ歳から高校3年生までを抱える世帯への一律10万円給付」を巡っても、政府与党内のあつれきが表面化し、すったもんだの末、地方自治体に判断を委ねる形で、公明の主張が事実上通った経緯がある。

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