「京王ズ」上場廃止危機、光通信はどう動く? 不正会計が解決せず、タイムリミットに

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ところで、調査中にも不正が継続していたことについて、2011年に調査にあたった第三者委に責任はないのか、という素朴な疑問も沸く。この点について前出の内部統制の専門家は「第三者委員会は調査対象期間の調査を行い、必要な勧告をしたらその後のモニタリング業務は受けないし、顧問への就任依頼があっても辞退するのが普通。勧告後のモニタリング業務の受注目的で報告書が歪む可能性があるため」だという。

事後のモニタリングは第三者委ではなく市場の役割であり、その意味で特設市場銘柄指定を解除しなかった東証は、一定の役割を果たしたことになる。

不正をはたらいた経営者が大株主でもある場合、取引所が「内部統制の正常化は、経営から退くだけでは足りず、株主権の剥奪も不可欠」というところまで踏み込み、半ば強制的に株主権を手放させた事例は、盗聴事件を引き起こした武富士のケースなど、ごく一部に限られる。本人が大株主であり続ける限り、株主による牽制は期待できない。その分、取引所がモニタリングの面で果たすべき役割は大きい。

京王ズの株価は、いまだ高水準

京王ズの1月8日終値は488円。上場廃止が危ぶまれる銘柄にしては高水準で推移しているのは、親会社の信用ゆえだろう。

ただ、TOB以前からの保有分も含めて光通信の投資額は総額22億円、1株あたりの取得単価は510円前後。1億円前後の含み損が発生しているだけでなく、運転資金約20億円の支援も約束している。上場廃止になっても京王ズ株が無価値になるわけではないが、他の少数株主の扱いも含めデメリットは甚大。親会社としての沽券という意味でも上場廃止は是が非でも回避したいはずだ。

それにしても555円というTOB価格は、TOB公表当時の市場価格に対し、66.17%ものプレミアムが乗った金額で、株価がこの水準だったのは2007年10月まで。上場廃止の危機を招いた元凶である創業者は、保有全株をこの値段で買い取ってもらい、買い取った光通信がそのツケを払わされかねない状況にあるというのは、皮肉と言うほかない。

本件では、たまたま光通信との間で商取引上のトラブルが発生し、光通信側に“下位代理店網の死守”という、この会社を子会社化するインセンティブが生まれた。だが、それがなければ内部統制が改善されないまま1月19日の最終期限を迎え、上場廃止が決まっていた可能性は高い。

光通信とのトラブル発生前、この会社には1万人を超える個人株主がいた。不正をはたらいた経営者の株主権について、何らかの規制の導入が検討されても良いのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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