病院サバイバル コロナ後を見据え大再編に突入

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人口の減少、資金不足、後継者難、そして医療需要とのミスマッチ。病院大国ニッポンには課題が山積する。アフターコロナには病院の生き残り競争が加速する。

サバイバル競争が加速
病院淘汰のカウントダウン

経営難・後継者不足の病院大国ニッポンに、再編・淘汰の嵐が迫る。

地域医療を担ってきた病院の移転をめぐって、仙台市が揺れている。発端となったのは宮城県が昨年9月に打ち出した県内4病院の再編方針だ。

方針では、①仙台赤十字病院(仙台市)と県立がんセンター(名取市)を統合、②東北労災病院(仙台市)と県立精神医療センター(名取市)を移転し合築(がっちく)(1つの施設に併設)することが示された。

新病院の移転先は決まっていないが、赤十字病院とがんセンターとの統合で生まれる新病院は、仙台市の南に位置する名取市が誘致に名乗りを上げた。合築される新病院は、仙台市の北にある富谷(とみや)市が誘致をしている。

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仙台市からすると2つの大きな病院が市外へ移転することになり、市当局や市民が反発しているのだ。

JR仙台駅から車で北に10分ほどの住宅街の中に、再編計画の対象になっている東北労災病院がある。病床数548、年間3000件を超える救急搬送を受け入れる大型の総合病院だ。

移転後の新病院の詳しい内容は明らかになっていないため、仙台市民や通院患者には不安が広がる。市は県に対し、計画案の詳しい内容の開示や住民への説明などを求めている。

県の再編計画の前提にあるのは、各病院の厳しい経営状況だ。東北労災病院は過去5年、2億~9億円の赤字基調が続いている。「周囲の病院との競争が激しく、病床稼働率が低下している」(同院の徳村弘実院長)。県立がんセンターは県の財政支援によって黒字を維持しているが実質的には赤字状態、仙台赤十字病院も赤字が続く。

県が再編に乗り出したのには、病院が仙台市内に集中し、仙台市とその周辺とでは「医療格差」が生じていることも影響している。

県によると、名取市、富谷市の救急搬送のうち、7割超が仙台市内へと運ばれている。仙台市内では救急搬送で病院に収容されるまでの時間が平均39分なのに対し、赤十字病院が移転を予定している名取市では51分を超える。

こうしたデータに対し仙台市は、今後の救急需要の伸びも考慮すべきだと反論している。また、東北福祉大学の佐藤英仁准教授(医療経済)は「具体的な移転先や病院の規模がわからなければ、移転後に救急体制がどう変わるか分析しようがない」と十分なデータを基に検討するようにクギを刺す。

仙台市のような、病院再編をめぐる市民と行政当局、あるいは市と県との衝突はそれほど珍しいことではない。県立病院の場合、統合によって病院事業を好転させたい県と、病院の立地する市町村との間では、対立が生じがちだ。

全国でも待ったなし

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