過去の天才音楽家たちが「貧乏だった」納得の理由 日本人第一人者が語る現代音楽の魅力と奥深さ

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──渡英して入った高校のビジネスライクぶりは何だか笑えました。

「ダイはスポンサー集めに使えるから」と演奏会などたっぷり働かされました。僕が大阪出身だからか、使えないヤツに金は出さない、使えなくなったら奨学金は打ち切るというのはわかりやすかった。相手が15歳だろうと、奨学金出す分は働いてもらうからね、というのに納得感がありました(笑)。

今モテたいか、後生でモテたいか

──子供時代はモーツァルトもベートーベンも嫌いだったし、ハイドンなどは今もって理解不能と。

何百年も前の、馬車に乗った貴族だけが聴く音楽など、大阪のそこら辺の子はどう感じていいかわからない。とにかく僕はメロディーを書くのが好きだったし、曲を作っているときがいちばん自由でした。

現代音楽に浸り始めたのは高校、大学生のとき。非常にざっくり言うと、戦後の現代音楽はナチスがワーグナーをプロパガンダに利用した反省から生まれた。聴衆を洗脳しない音楽を作ろうという前衛運動で、少しのメロディーも許されない音楽が作られた。そこに一石を投じたのが、1970〜80年代の武満徹やリゲティらの情緒ある作品。現在はいろんなジャンルがクロスしていて、ロックから入ってくる人もいます。

──ただ現代音楽って、なかなか身近に感じられないのですが。

音楽はつねに、その時代の大衆には受けないんです。ベートーベンの「運命」は当時クレイジーと思われた。今はバレンタインコンサートで弾かれるブラームスのピアノコンチェルトも、騒音でしかなかった。100年200年の時間が経ってようやく浸透するわけで。

商業音楽は、そういった過去の作品から受けそうな部分を借りてきて、パッケージして作る音楽ですよね。それはそれですごいけど、僕の願いとしては、商業音楽の作曲家も指揮者もファンの人たちも、過去の貧乏作曲家たちがこれだけのお宝残したんだ、とちょっと認識してくれたらと思ったりします。

──つまり、現代音楽を身近に感じられなくても、それは当然と。

それが普通なんじゃないですか。

作曲家である僕としては、今モテたいか後世でモテたいか、って話。今モテたいなら商業音楽を追求すればいいし、僕は自分の好きに作って、もしかすると将来好きになってくれる人がいたらいい。もちろん今多くの人が聴いてくれればうれしいけど、そのために書くことはできない。多く作曲して豊かになるわけでもなく、うちの親が言うんです、「ほかのことすれば? 頭悪いわけやないのに」って(笑)。そのとおり。でも自分としては、そこまでして書かなきゃいけない曲を書いてるわけで。

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