これもあなた自身のスタバ体験を振り返るとわかるはずだ。あなたのスタバ体験は、スタバの店舗で生み出されているはずだ。スタバは、店舗と店員を通じて、顧客と直接触れ合うことが何よりの体験だと考えている。たとえば、スタバは広告などにおカネを使う代わりに、店頭で新しいコーヒーを試飲させるのだ。
スターバックスで8年間マーケティングプログラムの作成と実行に携わっていたジョン・ムーアは、著書『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で、次のように書いている。
スターバックスのマーケティングは、言葉で表現するというより行動で示す。立派な広告にお金をかけるよりも、顧客エクスペリエンスをより素晴らしいものにしようと、マーケティング資金の多くを次のことにあてている。
・メニューに個性的なドリンクを増やす
・店内でコーヒーを飲みながら楽しめる無線LANと、音楽CD作成ができる設備を整える
・座り心地のいいソファと読書用のテーブルを増やす
・サービスのスピード向上のため、従業員の数を増やす
……お客様の体験を生みだすことがスターバックスにとっての「一番のマーケティング」なのだ。
広告を何百回も見るよりも、実際にコーヒーを一口飲んだほうが、はるかに印象に残る。だからスタバは広告におカネを使わずに、店頭に来る消費者に直接訴えかけているのだ。
もちろん、マス広告の効果が失われたわけではない。マス広告が抜群の威力を発揮する場面は依然として多い。しかしマス広告は必ずしも万能ではなくなってきている。スタバのように、店舗・店員とソーシャルメディアを組み合わせて効果を上げる場面も増えてきているのだ。
そして賢い消費者に対して、昔ながらのアプローチで働きかけても、足元を見られるだけだ。消費者は本物を求めている。
現代のより賢くなった消費者には、より洗練された、より賢い方法で働きかけることが必要なのである。
(撮影:尾形文繁)
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ながい たかひさ / Takahisa Nagai
慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。
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X(旧Twitter) @takahisanagai
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