次期韓国大統領選は最大野党候補が若干リード テレビ討論会では「勝負なし」の判定だが…

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実は、1回目のテレビ討論から半日も経たないうちに、テレビ討論で決定打を出せなかった李在明氏を揶揄するパロディー動画がYouTubeで公開されたが、その中で李在明氏に擬せられた映画の中のヒトラーが「同じ革新系なのだから助けてくれればいいものを」と、沈相奵氏を恨んでいるかのようなシーンが描かれていた。このシーンのように、李在明氏が実際にそのような心境になったとしても不思議ではないほどの沈相奵氏の舌鋒だった。

保守中道系野党の安哲秀氏は、2021年末から年明けにかけて支持率が急な伸びを示したものの、その後は頭打ち、あるいはやや低下傾向が見られていた。それだけにテレビ討論は重要な機会だったはずだ。安氏は「国民年金改革を進めることを共同で宣言にしよう」と呼びかけて、3候補から賛同を得たのが目を引いた。ただ、総じて言えば李在明氏、尹錫悦氏に質問を投げかけても失言を引き出すようなこともなく、両候補者ともに自らの存在感を十分にアピールするには至らなかった印象を受けた。

支持率の差は僅少、情勢変化の可能性も

――2022年3月9日の投票日までの選挙戦の行方はどうなりそうですか。

2022年に入って尹錫悦氏が李在明氏を追う選挙戦となったが、1月下旬には世論調査で尹氏が逆転に成功という結果が出始めた。そして今回のテレビ討論が「勝者なし」で、サプライズがなかったこともあって、テレビ討論会以降、各世論調査機関の結果は「尹氏優位」で足並みがそろってきた。

李在明氏は固定支持層が付いているものの、その支持層を大きく広げる要素が現在は見当たらない。与党内に危機感がある一方で、李在明氏に反感を持つ幹部もいるなど、一枚岩ではない。となると、野党側の動きが勝敗を決する可能性が高そうだ。

つかもと・そういち/1965年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒、NHK入局。北京特派員、ソウル支局長などを務める。2019年から現職(写真は本人提供)

世論調査によると、尹錫悦氏でも安哲秀氏でも、保守・中道野党候補の一本化に成功すれば、李在明氏を押さえて勝利する見通しとなっている。尹錫悦陣営は安哲秀氏の伸び悩みもあって強気の姿勢を崩していない。それゆえ、一本化しなくてもゴールまで完走して勝利を手にできるという思惑だ。

これから投票日まで、尹氏優位のまま推移する可能性が高い。ただ、李在明氏との支持率の差は1~5ポイント程度で、誤差の範囲を大きく上回ったわけではない。政治経験の少ない尹錫悦氏が大きな失策を犯す、あるいは、李在明氏が尹氏を追い詰めるような決定的な爆弾を炸裂させるようなことがあれば、一気に情勢が変化する可能性も排除できない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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