水ビジネスの幻想と現実[2]--日本勢唯一の“独壇場”に異変、水処理膜の覇権争い

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 その逆浸透膜で目下、世界をリードしているのが日本企業である。調査会社推計によれば、日本の主要な膜メーカーである日東電工、東レ、東洋紡の合計シェアは5割に達する。

膜は水処理装置のパーツなので市場規模は約600億円(09年推計、脱塩用と産業用の高性能膜のみ対象)と大きくはないが、世界の水関連産業の中で、日本勢が大きな存在感を有する唯一の分野と言っていい。

世界の大型海水淡水化プラント支える日本の膜技術

来2011年、造水量で世界第1位と第2位の海水淡水化プラントが立て続けに稼働する。水処理膜を納入するのは、いずれも日本のメーカーだ。

世界最大のプラントが予定されるのはアルジェリアの北西部マグタ。1日当たりの造水量は50万トンで、約200万人分の生活用水を供給できる。同施設の膜を全量受注したのが東レだ。実はこのプラントの建設に当たって、発注者のアルジェリア政府側が特殊な要求を突き付けてきたという。それは「塩分除去だけでなく海水に含まれるホウ素を除去してほしい」というもの。ホウ素は柑橘類の立ち枯れ病の原因とされ、柑橘類栽培がさかんなアルジェリアにとっては切実な要求だった。

しかし水処理膜メーカー各社は頭を抱えた。なぜならホウ素は水の分子と同じくらい小さく、逆浸透膜ですら除去が難しいからだ。東レ以外の他社は一度水処理膜で処理した水をさらに逆浸透膜で濾す2段方式を提案した。これならばホウ素の除去も可能だが、導入コストも二重に膨らんでしまう。一方で東レは、濾過後のホウ素濃度を従来の半分に減じることができる専用水処理膜を開発、従来どおり1段の逆浸透膜処理を提案し受注につなげた。水処理・環境事業本部の阿部晃一本部長は「膜に対する顧客ニーズは単に安さだけではなく、今後は有害物質の除去機能にも及んでくる。そこでも技術力が差別化の源泉になる」と言う。

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