北海道新幹線、並行在来線「廃止前提」の大問題 住民抜きの「密室協議」が方向性を決めてしまう

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それでは、具体的に鉄道を維持しようとした場合には、どのような方策が考えられるのだろうか。国土交通省では、人口減少社会において地域の活力を維持、強化するために地域交通ネットワークの確保が喫緊の課題となっていることを踏まえて、「交通政策基本法」の制定、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の改正が実施され、持続可能な地域公共交通ネットワークを形成するための環境整備が進められている。

この中で、地域鉄道も「住民の移動や観光振興など地域の基盤として重要な役割を担うもの」として位置づけられているが、厳しい経営状況に置かれ安全輸送などの課題を抱えているところが多いことから、こうした課題を解決するために国土交通省ではさまざまな支援メニューを用意し、地域が主体となって行う意欲的な取り組みに対しては、国が積極的に支援をしていく。これまでもこうした事業の活用により、京都府の京都丹後鉄道や鳥取県の若桜鉄道など、沿線住民に対する利用促進活動や沿線外からの観光旅客誘致など需要喚起活動により輸送人員を増加させ経営改善を実現できた事例は多い。

にもかかわらず、北海道においては鉄道の活性化に向けて意欲的な取り組みを行いたいという地域の潜在的な声はあるものの、こうした声を行政側が黙殺して一方的に廃線ありきの議論が進められている実態があり、北海道新幹線開業後の地域活性化に向けて地域が一体となってアクションを起こす環境さえ与えられていないことが大きな問題と言える。

経営安定基金にあぐらをかいていた

これまでJR北海道の鉄道路線は北海道の鉄道網を持続的に維持していくことを前提に6822億円にものぼる経営安定基金の運用益により経営が行われてきており今後も政府からの追加支援は続く見通しだ。並行在来線についても北海道新幹線開業時まではこの基金により運営が行われる。日本の鉄道政策は大きな矛盾をはらんでいる点は多々あるが、こうした経営安定基金にあぐらをかいて鉄道旅客等の需要喚起のための営業努力、すなわち健全なる経済活動を一切行ってこなかったことは、北海道の鉄道活性化についての足かせとなってきたことは否めない。

北海道庁やJR北海道に鉄道経営を積極的に行って地方創生に結び付けようという意欲とスキルのある人材がいないのであれば、並行在来線会社の経営については、利用可能な制度を最大限に活用しつつ、やる気と能力のある公募社長を募るなり、京都丹後鉄道のように鉄道の運営自体を経営改革に意欲のある民間企業に委託するなど、新幹線開業後の北海道経済の発展のために成果を出すための方法はいくらでもあるはずである。

櫛田 泉 経済ジャーナリスト

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くしだ・せん / Sen Kushida

くしだ・せん●1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。

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