コロナうつ「自殺者数の異変」に見る意外な背景 「経済活動が回復するタイミング」で増えている

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実は、そう考えた理由はもう1つある。「月別自殺者数」のイレギュラー過ぎる推移だ。

2019年までと比べ2020~2021年は、例年なら減少傾向となる時期に自殺者が増加したり、増える時期に減ったり、ピークがまったく違う月に来たりした。

(グラフ:警察庁資料より筆者作成)

やはり新型コロナの影響だろう。この間の大きな出来事と言えば、緊急事態宣言だ。

・第1回 2020年4月7日~5月25日
・第2回 2021年1月8日~3月21日
・第3回 2021年4月25日~6月20日
・第4回 2021年7月12日~9月30日

緊急事態宣言による行動制限が人々の孤独を深め、自殺の増加に直結したのならわかりやすい。だが、宣言期間と月別自殺者数のグラフを見比べると、実際にはそう単純な話でもない。

緊急事態宣言の影響を直接かつ具体的に受けるのは、個人よりも、休業要請・命令の対象となるサービス産業(飲食店やイベント業など)だ。

そこで、直近2年間の自殺者数の変動グラフに、同時期の「第3次産業活動指数」(経済産業省)をグラフにして重ねてみた。すると、興味深い結果となった。

(グラフ:経済産業省および警察庁資料より筆者作成)

「経済・生活問題」を理由とした自殺の減少や、「経済的安定がメンタルヘルスの安定につながる」とした海外の調査結果を踏まえ、「景況悪化時は自殺が増え、好況時は自殺が減る」と勝手にイメージしていたのだが、様子がかなり違う。

それどころか、2020年6月以降は緩やかに、そして2021年前半は偶然とは思えないほどに、自殺者数とサービス産業の動きがシンクロしている。

「経済回復期」に追いつめられる人々

この現象を素直に解釈すれば、自粛生活が明けて経済・社会活動が再開し、正常化が見えてきた頃こそが、メンタルヘルスの危機であり、自殺者の増えやすいタイミングということになる。

つまり、緊急事態宣言の下、皆が等しく我慢を強いられている“非日常”では、厳しい現実から目を背けていることもできた。だが、日常が戻ってきた時、それを素直に歓迎し活動を広げる人たちの姿は、その波に乗れない、受け入れがたい状況にある人たちを追い込んでいく。

例えば第1回宣言では解除後の2020年6月以降、感染が落ち着いてサービス産業も順調に回復していた時期に、自殺者数が急増し、数カ月間そのまま高止まりした。10月には異例のタイミングで、自殺者数の年間ピークを記録している。

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