事故続く「富士山」冬は閉山するもう1つの理由 冬でも「登山できる雪山」はたくさんあるが…

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冬山登山を禁止とする最たる理由は、ご想像のとおりその厳しい気象条件です。ほかの山と連なることのない独立峰として成立する富士山は、気象条件が複雑で変わりやすく、特に冬場の強い偏西風と降雪が、危険度を高めています。ガイドラインに掲載されている、気象庁のデータによると2011年~2020年1月の富士山の平均気温は-18.6℃で、「厳冬期の富士山は、風速30m、気温-30℃になることも稀ではない」と記載されています。そして、このような気象により、斜面の積雪地は広範囲にわたり凍結するため、強風に煽られての転倒や滑落の危険性が高まります。

加えて、閉山期間中はトイレ・山小屋は閉鎖されているため、緊急時に安全を確保することが非常に困難であることや、当日の天候次第では、救助隊が直ちに現場へ出動することもままなりません。万が一のケガや体力不足による立ち往生など、夏山期間中であれば直ちに重大事故に発展しないような事柄が、厳冬期には一瞬で命を奪う大事故につながる恐れがあります。

このように冬季の富士山は、人を寄せ付けない厳しい環境であり、その登山は経験を積んだ登山者であっても、危険が伴う行為であることは言うまでもありません。

他の山は開いているのに、なぜ富士山は「閉山」?

日本では、冬山シーズン中も山小屋が営業していたり、山岳警備隊が常駐するなど、冬季にも登山を楽しむことができる体制が整った山はいくつもあります。一方で、富士山の開山時期は前述のとおり、1年のうちで7月1日(山梨県側。静岡県側は7月10日)~9月10日のわずか2ヶ月間のみです。この記事をお読み頂いている方の中には、「この前後でもう少し登れる期間を延ばせば、夏場の混雑もなくなるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

参考までに、開山直前の6月の登山道はどのような状況かというと、その年の天候によって差はあるものの、山頂付近には依然として数mの厚さの雪が所々に残っており、登山道は埋もれています。また、雪解け後に発生した落石が路面に山積しているため、整備なしでは登りにくい状況です。

あまり知られていないことですが、毎年6月頃にガイドが集められ、開山期間を前に登山道の雪かきと整備作業が行われます。作業を行う山頂直下は6月も気温は一桁台の寒さで、酸素の薄い環境での雪かきは、なかなかの重労働ですが、フィールドを整備するのもガイドの勤めです。

このように、火山の噴出物でできた富士山は崩壊しやすく、開山期間中に安全で快適な登山道を利用するためには開山前に一定期間、メンテナンスする必要があります。

6月の富士宮口山頂直下9合5勺での雪かき(筆者撮影)
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