4:「消費者の物語」をわからずにマーケティングはできない
とはいえ、もちろん、すべての消費者の心に刺さる物語などあるはずがありません。ひとつの物語がつかみ取れる顧客の数には限界があります。しかし、ならば、その限界を乗り越え、最大化する方法があります。
それは、単に作り手が消費者に押しつけるのではなく、消費者自身に自分の物語を見いださせることです。人は、自分が作り出した幻影としての物語と、商品そのものの物語を区別できない動物です。
成功した現代アイドルには、この消費者に自らの物語を作り出させる、物語のメタ構造がきちんとデザインできています。現代アイドルを正しく理解することで、このビジネスマンとして当然、知っておくべき4つの重要なポイントを理解することができます。
「あまちゃん」の成功は偶然ではない!
そして、ここにもうひとつ、重要な点を加えたいと思います。それは、「アイドル」が戦後日本社会を貫く大きな「軸」だということです。それを端的に示してくれたのが、2013年の「あまちゃん」の成功です。
「あまちゃん」は、アイドルを目指す現代の少女の物語ですが、それは1980年代にアイドルを目指した少女である母と、1960年代に地元のアイドルだった少女である祖母と、3世代の物語が時空を超えて相関した複雑な日本史でもあります。「あまちゃん」が性別や世代を超えて大きな共感を得たということは、私たちが戦後日本史を「アイドルの社会史」として理解しているということです。つまり、「アイドル」には「今」だけではなく、戦後日本を貫く社会意識が投影されているのだ、と言えるでしょう。
①現代消費者心理を考えること
②現代労働者心理を考えること
③「物語」の構築法を考えること
④消費者に「物語」を作らせる方法を考えること
⑤戦後日本の目指してきたものを考えること
この5つのポイントを考えるために、アイドルのことをまじめに考えてみませんか?
言及するアイドルの選択には個性が出ます
なお、どうしても言及するアイドルたちの選択には個性が出てしまうので、一応、本連載を読むために要るだろう範囲で筆者自身のことを説明しておくと、
・国際大学GLOCOM客員研究員。専門はエンタメ産業とその産業政策の分析
・ほかに、本業というかなんというか、経済産業省で国際戦略情報分析官(情報産業)をやっている、IT系っぽい人
・46歳、東京出身、既婚、子供2人。
・5歳のときに生まれて初めて買った(親に買わせた)レコードが、南沙織の「色づく街」
・2000年代には、モーニング娘。と共同プロジェクトを企画、実施し、石川梨華、吉澤ひとみとステージに上がったことは一生の自慢
・ライブ主義であり、ライブではアイドル本人もそうだが、来ているファンたちを観察するのが好き
・現在の推しはももいろクローバーZ(特に佐々木彩夏)で、ライブには家族を引き連れて参加
どうです? みなさんと同じ、40代のサラリーマン、しかも、21世紀に入ってからのアイドル再入門組ですよ。そんなわけで、どうぞ、WEB版のアイドル国富論にお付き合いください。
(お知らせ) 新刊『アイドル国富論――聖子・明菜の時代からAKB・ももクロ時代までを解く』の刊行を記念し、"境真良×斎藤環×松井孝治 アイドル論の臨界点~アイドル×日本×経済"と題するイベントを11月7日(金)19:00より、ゲンロンカフェ(五反田)で行います。詳細は、こちらをご覧ください。
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