"ネスカフェ復権"の裏に「古典的戦略」? コーヒー×定石が生んだ、新しい儲けの仕組み

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

しかも、スタバなどの普及でラテやカプチーノなどさまざまなメニューが一般的になったのに、従来のインスタントコーヒーをアレンジするのは難しい。

この問題を解決しようと、ネスレが2009年に発売したのが、日本向けに開発したインスタントコーヒー専用のコーヒーマシン「ネスカフェバリスタ」だ。

バリスタでは、ゴールドブレンドのカートリッジをセットし、タンクに水を入れてボタンを押すだけ。これで、ゴールドブレンドをいちばんおいしい状態で飲める。お湯を沸かす必要もなく、ラテなどのメニューも簡単に作ることができる(注:なお、ネスレは2013年8月から「インスタントコーヒー」ではなく「レギュラーソリュブルコーヒー」という呼称を使っている)。

 ネスレ日本がすごかったのは、そのビジネスモデルの設計においてだ。ここで出てくるのが、例の「ジレットモデル」。マシンの価格はもともと1台1万2800円と割安だったが、2011年には9000円に値下げした。実売は7000円だ。ネスレ日本のマーケティング担当者はメディアのインタビューで、「ネスレでは、この値段で儲けるつもりはありません。バリスタを浸透させたいので、廉価販売しています」と言い切っている。

では、ネスレはいったいどこで儲けているのか? その秘密は1杯当たり20円のコーヒーカートリッジにある。もうおわかりだろう。ヒゲそりやプリンタ本体に相当するのがコーヒーマシンであり、替え刃やトナー・インクに相当するのが1杯20円のコーヒーカートリッジなのだ。

「フリーミアムモデル」で、さらに先を行く

ネスレの戦略は、実はさらに一歩先を行く。このコーヒーマシンを、オフィスに無償で貸し出しているのだ。それが「ネスカフェ アンバサダー」である。

「コーヒーを飲むと仕事がはかどる」という人は多いだろう。コーヒーには覚醒効果があるからだ。自宅よりも会社のオフィスでコーヒーを飲むことが多い会社員も多いはずだ。

ネスレはここに目をつけた。ネスレのシェアは家庭向けが37%なのに対し、オフィス向けを含む家庭外は3%にとどまる。 オフィスはネスレにとって未開拓の市場なのだ(出典:日本経済新聞 2014/8/28 「ネスレ、コーヒーマシン無償で50万件」)。

 ではどのようにオフィス市場を開拓するか。企業の中には、実にたくさんの利害関係者がおり、購買に至るまでの意思決定プロセスは複雑だ。ネスレは消費者向けの商売は知り尽くしているが、企業向けの商売は門外漢。ネスレは悩んだはずだ。

次ページ古典をバカにしてはいけない
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT