トヨタ、メキシコ新工場が問う"章男流"の真価 成長への投資を求める現場と隔たり

拡大
縮小

 一方、トヨタと世界販売首位を争っている独フォルクス・ワーゲン(VW)は拡大のアクセルを踏み続けている。米国でのSUV(スポーツ多目的車)工場建設のほか、14年から18年にかけて世界最大市場の中国での合弁事業で182億ユーロ(約2兆4900億円)を投資し、現地の生産能力を400万台に高める計画だ。

メキシコでは日産自動車<7201.T>、ホンダ、マツダ<7261.T>などの新工場がすでに相次いで稼働しており、独BMWや独アウディ、韓国の起亜自動車<000270.KS>も工場新設を決めた。ここ2年間で自動車部品メーカーも160社以上が進出または進出を予定している。

身動きが取れない、と困惑の声

デンソー<6902.T>などすでにメキシコで工場を構える大手でも、トヨタが新工場を建てるとなれば生産能力の増強が必要になる可能性がある。財務体力に限りがある中小下請けには、まだ進出していない企業も多い。中堅サプライヤー幹部は「トヨタがいつ出るのかはっきりせず、進出を決めかねている」と話す。中長期の成長戦略や数値目標が見えない中では投資計画を立てられず、「身動きが取れない」という困惑の声も上がる。

ある商社の幹部によると、「ホンダとマツダの進出で周辺の地価は一気に上昇した」。進出が遅れると投資負担がかさむ可能性が高く、中小企業にとっては大きな痛手だ。「トヨタは決めたら早い。遅れずについて出ていくしかない」。多くのサプライヤーがこう話し、トヨタが決定次第すぐ現地へ乗り込めるよう準備を進めている。

台数を追わず「良いクルマづくり」を追求する「唯一無二の自動車メーカー」であり続けたい、と繰り返す章男社長。トヨタグループにとって新たな事業拡大機運が盛り上がる中、章男氏の手堅い経営戦略も大きな変化に直面している。

 

(白木真紀、白水徳彦、久保田洋子 編集:北松克朗)

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