カープ女子聖地は「ドケチ経営」でできている 12球団のホームグラウンドへ行ってみた<1>

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旧広島市民球場時代の年商は概ね60億円前後だったが、新球場移転後は90~100億円規模へと大幅に増えた。新球場は、球場自体の所有者は広島市だが、球団が指定管理者になり、チケットやグッズの収入だけでなく、場内の広告看板収入や飲食収入が全て球団の収益となるよう変わったからだ。

観客動員数は年間156万人(2013年実績)で、セ・リーグでは4番目、12球団中では7番目。実は前年比1.5%減だ。カープ女子は主に首都圏に大増殖しているため、この球場の観客増には貢献していないのだろう。観客動員数は球団の収益にリンクするのに、なぜこんなに利益が出るのか。

その鍵はずばり、徹底したドケチ主義。選手の年俸が上がってくると惜しげなく放出してしまう。阪神のアニキ金本も新井貴浩も、もとは広島が育てたスター選手である。昨年は10勝したピッチャー大竹をあっさり巨人に渡した。

球場サービスにもそのドケチ精神は生きている。チケット販売がアナログなのでたぶんシステムコストが他球団に比べてかかっていない。通路ごとに立っているチケットチェック係兼案内係は年配の人も多く、とにかく球場内のことをよく知っているし、何を聞いても広島弁で親切に教えてくれる。この人たちがほぼ全員地元のボランティアだ。

そしてドケチ経営の真骨頂が、6回表前のCCダンス。広島は12球団中唯一チアを持たない球団で、ビールの売り子にチアの代わりをさせるのである。昨年初めてこの球場に来て、一番びっくりしたのはこれだ。

この球場には、広島の選手がホームランを打つと、打った選手にホームラン人形を渡しに行くホームランガールがいるが、彼女たちはチアではない。5回裏終盤になると、売り子がスタンドの最前列に下りてきてやおら背負っていたビールタンクをおろし、待機モードに。5回が終了すると、すっくと立ちあがって場内に流れる音楽に合わせて踊り出す。プロのチアではないので動きは小さいが、テレを含んだ素人っぽさがなんともかわいらしい。

ラッキー7はおなじみジェット風船。球場全体が真っ赤に染まる。ただ、阪神ファンのジェット風船を見てしまうと、広島ですら見劣りする。観客のヤジもこの球場の魅力の一つだ。ゲーム終盤、サヨナラのチャンス時にランナーの本塁突入を3塁コーチが止めると、これに大ブーイング。次の打者が打撃不振に苦しむキャッチャー石原だからだ。

まとめると「非常に満足度の高い球場」

2013年に来たときも、3塁堂林のトンネルに「またやってもうた」。バントがうまくない岩本がバントのポーズをとると「ヘタなんじゃけーバントさすな」の大ブーイング。バッティングポーズをとると一転して大歓声が巻き起こったことを記憶している。

結局石原の打球を3塁川端がとれず、ゲームは広島のサヨナラ勝利に終わった。広島ファンのみなさん、よかったですね。

座席の居住性は最高、トイレもきれいでスタッフも親切。ヤジも聞いているだけで楽しい。飲食は生のフルーツ飲料が充実していることが他球場にない特徴だろう。座席も下段は客席の段数がわずか33段しかなく、3階コンコースのどこから見てもグラウンドが近い。あえて難点を上げるなら、ブルペンが観客席から見えないことぐらい。広島は何度でも行きたい球場ナンバーワンである。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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