多くの日本人が真逆に誤解「ジョブ型雇用」の本質 時間でなく成果で評価?生みの親が間違いを正す

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以上述べてきたシステムは、大企業分野において最も典型的に発達したモデルです。日本社会は、大企業と中小企業、とりわけ零細企業の間にさまざまな面で大きな格差のある社会ですが、雇用システムの在り方についても企業規模に対応して連続的な違いが存在します。

それをよく示すのが、企業規模別の勤続年数と年齢による賃金カーブ、そして労働組合組織率です。

企業規模が小さくなればなるほど、勤続年数は短くなり、賃金カーブは平べったくなり、労働組合は存在しなくなります。つまり、大企業から、中堅、中小、零細と、規模が小さくなるほど、日本型雇用システムの本質としてのメンバーシップ性が希薄になっていきます。

企業規模が小さければ小さいほど、企業の中に用意される職務の数は少なくなりますし、職場も1カ所だけということが普通になります。そうすると、いかに雇用契約で限定していなくても、実際には職務や勤務場所は限定されることになります。

零細企業の正社員はもともと「名ばかり」だった

また、中小企業ほど景気変動による影響を強く受けやすいですし、その場合、雇用を維持する能力も弱いですから、失業することもそれほど例外的な現象ではなく、そのため地域的な外部労働市場がそれなりに存在感を持っています。

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その意味では、企業規模が小さくなればなるほど、正社員といっても非正規労働者とあまり変わらなくなるのです。

名ばかり正社員という言葉がありますが、もともと零細企業の正社員は大企業の正社員と比べれば名ばかりであったのです。

しかし、このようなあり方をジョブ型と表現するのは正確ではありません。むしろ、中小企業ほど労働者の職務範囲は不明確で、社長の一言でいくらでも変わることがありますし、賃金基準も曖昧です。労働時間に関しては下請企業として親会社の都合に合わせなければならないこともあり、むしろ長時間労働が強いられがちです。

総じて、大企業型の安定したメンバーシップとは異なりますが、ある種の濃厚な人間関係によって組織が動くことが多いのです。

濱口 桂一郎 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長

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はまぐち けいいちろう / Keiichiro Hamaguchi

1958年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。労働省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授、労働政策研究・研修機構の主席統括研究員を経て現職。日本型雇用システムの問題点を中心に、労働問題について幅広く論じている。主な一般向けの著書に、『新しい労働社会―雇用システムの再構築へー』(岩波新書)、『日本の雇用と労働法』(日経文庫)、『若者と労働 ー「入社」の仕組みから解きほぐすー』(中公新書ラクレ)、『働く女子の運命』(文春新書)などがある。

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