日本の中年男性「貧乏転落」が続出しかねない訳 新自由主義、自己責任国家が格差と分断を作る

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制度に守られてきた男性があぶれてくるかもしれない(写真:タカス/PIXTA)
平成30年をかけて、福祉国家から市場競争を重視する新自由主義(ネオリベ)国家へと変貌を遂げた日本。自己責任論が席捲する社会で何が犠牲となってきたのか――? ノンフィクションライターと政治学者が衰退途上国・日本の現状を徹底分析した『日本が壊れる前に 「貧困」の現場から見えるネオリベの構造』より、一部を抜粋・再編集してお届けします。

政治がつくりだす貧困

中村淳彦(以下、中村):ネオリベの導入でもっとも影響を受けたのは、労働集約型の公的サービスの現場で働いている人たちでしょう。先日、コロナ禍に大病院が看護師を手取り14万円台、ボーナスなしで働かせていることが問題になって、炎上していました。ネオリベ下で保育士にしても介護職員にしても、公的な現場仕事は限界まで賃金を下げようみたいな意識が働いていた。

介護保険の介護報酬にしても、保育園の公定価格にしても、財務省が下げ基調を要請して、どれだけ低賃金で働かせるかみたいな攻防がある。挙げ句に資格ビジネスが入ってきて、仕事につこうと思うと学校や研修にお金を使わされ、規制緩和で人材会社もはいってきてどんどん搾取されている。

藤井達夫(以下、藤井):机上の理論としては僕も理解していたつもりですが、現場の話を聞くと背筋が凍りますね。

中村:みんなよくそんな仕事を選ぶなと思うけど、やりがいとか社会貢献みたいなロジックを積み重ねるので希望者はいるし、当事者はダブル、トリプルで搾取されていることに気づかない。ネオリベ下の政府では行政が率先して貧困者を生みだしているので、ギリギリで成り立つようにできていて、生活保護の申請に並ぶみたいなことにならない。巧妙だなって思いますね。行政は縦割りなので福祉事務所や社会福祉協議会は、貧困者を支援したいみたいな意識はあるんでしょうけど、実際には機能しない。なので、行政が助けてくれると思っていると、意識はズレますね。

藤井:大学の非常勤職もそんなところがありますね、やりがい詐欺的なところ。僕も心当たりがありますよ。ところで、そうした女性たちは、行政に生活保護受給の相談に行ったりはしているんですか。

中村:多少知識がある人は、相談していますね。自治体によっても違って簡単に受給できて悠々自適な人もいれば、乾パンだけもらって追い返されて自殺未遂しちゃった人もいる。生活保護は憲法の生存権が根拠となっている制度なので、条件をクリアしていれば保護しないとならないのですが、部署とか担当者によっては追い返すことに力を注いでいるところもあるようです。それと、もちろん生活保護という制度さえ知らない人も膨大にいて、ある貧困老人たちのグループでは生きていけなくて何人も自殺しちゃったとか。

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