レット・イット・ゴーじゃない、レリゴウ♪だ 日本の英語教育を変えるキーマン 斉藤淳(2)

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斉藤:普通、仕事で直面するような課題はあると思うのですが、僕は大学生で留学したときに経験しましたね。これはもっと後のことですけど、博士論文を書き終わって就職活動をするときに、アメリカの大学からいくつも採用面接に呼ばれるわけなんですよ。面接で研究成果の報告をして、そのあとの質疑応答があるんですけど、応答しようにも質問が何を言っているのか聞き取れないんですよ!

それでトンチンカンなことを答えてしまって、「あいつは英語ができない」という理由で、その大学の就職が決まらなかったこともあります。

自分なりにやってきて、大学に入って留学して大学院にまで行って、それでも英語ができないといって就職を断られる。そういう悔しい思いは数限りなくあります。まぁでも、いちいちめげないことです!

ゼロリスクじゃノーリターンだ

安河内:やっぱり、そのメンタル面のタフさが重要ですね。日本人って失敗を恐れるじゃないですか。

斉藤:ものすごくゼロリスク思考ですね!

安河内:斉藤先生の本は『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』ですけど、日本には『ネイティブは』『ネイティブが』『ネイティブの』なんていう本がいっぱいあって、こう言わないとネイティブにしかられるとかって言いまくってるでしょ。

斉藤:もう戦意喪失ですよね。

安河内:そうなんですよ。それで、結局、ずうっとネイティブに笑われないように本で勉強し続けてるんだけど、英語を話したことがないっていう人がけっこういっぱいいるんですよね。

斉藤:ちょっと恫喝商法的なところがありますね。そういう本は、評価できる部分と評価できない部分とがあって、確かに「ネイティブはこう考える」という発想を理解することは大切だけれども、別にネイティブと同じ話し方をする必要はない。私自身もそういう割り切りができるまで大変でしたね。

安河内:発音とか正しい英語を学ぶ努力は大事なんだけれど、正しくなくちゃ英語は話しちゃダメとは思ってほしくないですね。その割り切り方がみんなわからないんですかね。

斉藤:われわれはこうやって日本語で対談してますけど、日本語だってパーフェクトで美しい日本語と、間違っているけど通じる日本語とがあるわけじゃないですか。

安河内:そらそうです! だって、この対談を文字にすると、そうとう文法の間違いがあると思いますよ。

三単現のsなんかつけるな!

斉藤:英語のことでいうと、大文字で始まってピリオドで終わる、主語と動詞があって、と考えがちですけど、映画の脚本なんかを見ると、そんなことはないです。断片断片で会話が行われていたりします。そのへんに対する割り切りが必要です。

100点じゃないとマズいというゼロ・リスク思考が、日本の教室を覆い尽くしていますよね。そうじゃなくて、40点を及第点とすれば80点くらいを目指せばいい。満点の英語じゃないと話しちゃいけないとか書いちゃいけない。完璧じゃないといけないという思い込みは捨て去って、とりあえず書いてみる、話してみるという経験をたくさん積まないと、書けるようにも話せるようにもならないですよね。

安河内:私も、暴論なんですけど、大学生なんかに、スピーキングの授業をするときには、必ず冒頭で「三単現のsなんかつけるな!」って言いますよ。

斉藤:(大爆笑)。

安河内:そういうふうに言わないと、主語を言ったあとにsをつけるかな、どうかなぁって、これでもう3秒くらい話すのが止まってしまう。

斉藤:よく聞いてると、うちのネイティブの講師でもたまに間違えているんですよ、三人称単数のsくらいは。アメリカの大学で英文学を専攻していた講師でも、たまには間違える。それくらいはあります。

安河内:私にもありますが、英語をしゃべっているときにほかの先生が聞いていたりすると、つい気にしちゃう。それがインペディメント(障害)になるんですよね。

斉藤:そのときに頭が真っ白になったり、そこで英語が喉元から出てこなくなったりするようなことは、避けたほうがいい。

安河内:これはすごくいいお話を伺いました。このポイントがわかっていなくて話せない人がけっこうたくさんいるんですよ。

斉藤:そういう割り切りをできなくさせてしまう入試問題を出しすぎです。

安河内:そこに行き着くんですよね……。

好きなものと英語が結び付くと、やる気が出る

斉藤:うちの場合はおばあちゃんが編み物が趣味で、編み物をしながらテレビを流しっぱなしにしていたのです。当時、NHK教育テレビの「セサミ・ストリート」をよく流していたのですけど、おばあちゃんがモノマネが好きで、わからないなりにセサミ・ストリートのモノマネをするんですよ。

おそらくばあちゃんは、適当にほにゃららほにゃらら言ってただけだと思うのですけど、僕は当時3歳くらいで、「おお、ばあちゃん繰り返してる!!」って思ったんですよ。それが僕が最初に日本語と違う言葉を聞いたっていう体験です。ばあちゃんのモノマネを鮮明に覚えてます! だから僕の英語の原体験はビッグ・バードとエルモですね。

あと、僕は小学生のときに短波ラジオを聞くのが好きでした。当時は日本語を中心に聞いていたんですけど、英語ができたらもっとほかの局の放送も聞けるなぁって思っていましたね。

安河内:そのモチベーションが、スパークしたのがすごいですねぇ。英語以外にはどんなものに心を強く引かれましたか?

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