値段ばかり気にする人が見誤る「いい消費」の本質 持続可能な社会に必要な価値観とはいったい何か

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よく経営や投資の現場で「失敗こそが最大の財産だ」という類の話を聞くことがあります。確かに失敗から学ぶことは多く、失敗から学べる経営者や投資家は強いと思います。ただ、失敗だけを繰り返していてもなかなかうまくいかないこともあります。

拙著『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』でも詳しく解説していますが、失敗に加えてもう1つ必要なことは成功を知ることです。成功体験ができればいちばんいいですが、できる限り成功している企業や現場を知っていることはそれ自体が大きな価値になります。

社会が成功体験を積むことで、新たな取り組みに大きな推進力を与えることになります。成功体験は賛同や共感を生みやすいからです。

いい消費と悪い消費の致命的な差

消費においてもいい消費と悪い消費には大きな違いがあります。悪い消費ばかりしていると、そこから得られる経験や成功体験は少ないかもしれませんが、いい消費にはプライスレスな価値があることがあります。

表面的な値段の価値だけにとらわれることなく、消費の価値を考えられる人は、いい消費の経験値が豊富だと思います。その人にとっては、いい消費は値段以上の価値があるのです。

悪い消費とは例えば、粗悪品の購入ですぐに故障してしまいかえって高くつくことや、健康を害し、医療費や休職が必要な羽目になってしまうことなどです。逆に、いい消費をすれば、その消費から成功体験を得たり、大きな学びにつながったりするでしょう。

『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』(祥伝社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

さらに、社会課題を解決し、環境をよりよいものとすることで、健康的でより時間を効率的に使えるようになるかもしれません。大事なのは、1人ひとりが何が本当に大切で、価値あるものなのかを考え、認識を深めていくことにあります。

地球環境や健康、時間といった労働の対価としての報酬と、消費というフローの枠組みから抜け出せない人には理解しがたいさまざまな価値を個人の消費者が認識し、考える消費行動をすることができれば、世の中にあるサービスやインフラ、サプライチェーン(供給連鎖)、あらゆるものが変化し、大きなお金の流れの変化を生み出すことになるのは間違いありません。

持続可能な社会を望むのであれば、資本主義が提示する価格ではなく、社会やその人にとっての価値を自分自身で判断する投資家マインドを持った消費が重要です。未来志向の社会性の高い価値観を身につけていくことが何よりも大事なのです。

村上 誠典 シニフィアン共同代表

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むらかみ たかふみ / Takafumi Murakami

1978年、兵庫県生まれ。シニフィアン株式会社共同代表。東京大学・宇宙科学研究所(現JAXA)を経て、ゴールドマン・サックス証券に入社。東京・海外オフィスにてM&A、資金調達、IR、コーポレートファイナンスの 専門家としてグローバル企業の戦略的転換を数多く経験。2017年に「未来世代に引き継ぐ産業創出」をテーマにシニフィアンを創業。独立系グロースキャピタルを通じたスタートアップ投資や経営支援、上場 /未上場の成長企業向けのアドバイザリーを行う。

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