スポーツ「勝利至上」の人に伝えたい不都合な真実 「勝ちたい気持ち」が強いと成績の妨げになる

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私たちの社会は、多くを犠牲にしてでも勝利という結果を残すことを美徳と捉える傾向があり、「よく頑張った」は敗者を励ます標語になり下がってしまっているように感じる。まわりにそのように評価されてしまう監督たちが、スコアボードの数値を重視せざるをえないことにもうなずける。

しかし、スコアボード上の勝利だけを勝利とすることには重大な問題が潜んでいる。1つは、スコアボードのスコアに執着しても、その一途な気持ちがスコアに反映され勝利につながるとは限らないこと。また、勝利したからといって長い人生の成功に資するとは限らないこと。

エンロンやワールドコムなど、大企業の名前が贈収賄の代名詞となるようなこの時代において、スコアボード上の数値に執着しすぎると、倫理的妥協という弱さを生み出すことにもなりかねない。大多数の人が自発的に正しいことをすることにより成り立っているこの社会の中で、過剰にスコアボードを重視することは社会のさまざまな側面に悪影響を与える。

まずは、若いアスリートたちの喫緊の課題とも言える、不安感とパフォーマンスへの影響について考えてみよう。

勝つことに集中すれば、勝てる可能性が高まる?

得点志向性にはさまざまな問題があるが、ほかのものよりも突出しているものがある。それは期待とは裏腹に、多くの、いや大多数のアスリートのパフォーマンスを低下させてしまうということである。ユーススポーツの世界における一般通念を覆す大事なことなので、別の言葉でも伝えたい。

一般通念では、スコアボード上で勝つことに集中すれば、勝てる可能性が高まると思われている。しかし、スポーツ心理の研究でわかり始めてきているのはその逆で、スコアボードを意識すると、スコアボード上で勝利する確率が低くなるというのである。

イギリスのバーミンガム大学でスポーツ心理学教授を務め、PCA顧問委員会の一員でもあるジョーン・デューダ博士は、つい最近、オーストラリアのシドニーで行われた2000年オリンピックに出場したアスリートと監督を対象として行われた驚くべき研究結果を発表した。

彼女は研究仲間とともに、15種目のスポーツを代表するアスリートとしてノルウェーとデンマークの62名(女性34名、男子28名)について研究した。学術的な言葉を用いると、自我(エゴ)(スコアボード)雰囲気において指導された選手と、課題(熟達)雰囲気において指導された選手たちの獲得メダル数を比較したところ、統計学的に有意な差が見出されたのである。

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