日本製電車が快走、バングラ初「都市鉄道」の全貌 交通問題解決のほか「女性の社会参画」にも期待

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車両は、川崎重工業とDMTCLの公表資料によると最初の1編成が3月4日に神戸港を出発。3月31日に現地到着後、内港輸送用の台船に載せ替えられ、4月23日に車両基地へと入った。

貨物船から降ろされる第1号編成=3月31日(写真提供:DMTCL)

5月11日には、伊藤直樹駐バングラデシュ日本大使、早川友歩JICAバングラデシュ事務所長臨席のもと、初編成車両到着式典が挙行された。引き続き輸送が行われており、9月中旬時点で第4編成までがバングラデシュに到着しているという。

前述のようにダッカは人口密度が高いことに加え、渋滞に伴う大気汚染が深刻だ。世界保健機関(WHO)が定める粒子状物質による環境基準の数値を大きく上回っており、都市住民に健康被害をもたらしている。

ダッカ・カマラプール駅に停車中の列車。都市間輸送の路線網はあるが都市内交通としての鉄道はこれまで存在しなかった(筆者撮影)

また、道路を走る車両の平均時速は東京で14.7kmだが、ダッカでは人が歩くよりやや速い程度の6.4kmにとどまっている。交通渋滞による経済損失もさることながら、投資環境として不適切との判断もあり、経済発展の足かせになっているわけだ。初の都市鉄道の建設は、都市そのものの発展に寄与することにもなるだろう。

女性が安心できる交通機関に

また、鉄道開業によってもう1つ解決が期待されている点がある。バングラデシュやインドといった南アジア諸国では、女性の社会参画が活発でない、という課題があり、MRTがこの改善に役立つと考えられているのだ。

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これは、バングラデシュを走るバスなど現状の公共交通機関では、「女性の利用時の安全性が十分に確保されていない」(JICA書面より)とされるためだ。MRTはラッシュピーク時における女性専用車両の運行、構内や車内でのCCTV設置で女性が安心して利用できる環境づくりを目指すという。

ダッカのMRTプロジェクトは、6号線だけでなく、引き続き1号線、5号線の整備も計画されている。1号線は、ダッカ国際空港と国鉄のダッカ中央駅の役割を担うカマラプール(Kamalapur)駅までを南北に結ぶもので、全線がバングラデシュ初の地下鉄となる。2026年の開通を目指している。一方、5号線はオフィス街のボナニ(Banani)、グルシャン(Gulshan)と1号線、6号線と接続、街を横断する地下鉄で、2028年の部分開業を目指す。

ダッカの鉄道敷設案件をめぐっては2016年7月、プロジェクトに関与していた日本人7人を含む22人が飲食店襲撃テロで殺害されるという痛ましい事件があった。いよいよ開業が見えてきたMRTは、鉄道実現に向けて尽力していたこうした人々の想いも乗せて走り出すことになる。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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