インドで動き出す「ガンジス川浄化大作戦」 最大の人災である水問題を解決できるか

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また、貯水の不足に加え、インドには水危機に繋がる要因が複数あります。まず、インドは農業国であり、湛水灌漑の約70%が農業用水として消費されています。さらに、インドでは工業排水を管理する適切な施策がないために、その多くは川に廃棄されています。このためインドの14の主要河川とその流域は重度に汚染され、地下水も汚染されているのです。ガンジス河はヒンドゥー教徒にとっては宗教的にきわめて神聖な川ですが、インド全人口の約4割に水を供給するという重要な役割も担っています。しかし、ガンジスの水の80%は汚染されているのです。

モディがガンジス川流域から出馬したワケ

ナレンドラ・モディ首相は総選挙で、ガンジス川の流れるバラナシを選挙区に選びました。グジャラート州で州首相として成功を収めた彼なら、地元を選挙区とすれば難なく勝てるはずなのに、なぜバラナシに出馬したのか。インド人もびっくりしました。しかし、彼には長年温めてきた一大目標があったのです。ヒンドゥー教徒にとって最も聖なる川であるガンジスの浄化です。

モディ首相はガンジス川の浄化を公約し、ある演説では、インドをきれいにするミッションをバラナシから、つまりガンジス川の浄化から始めると述べました。河川の浄化政策はこれまでにも数多く実行されてきましたが、汚職や管理不足といった原因で思わしい成果を上げられていません。モディ新政権が7月上旬に発表した国家予算案では、ガンジスプロジェクトに203億7000万ルピーが割り当てられました。

ガンジス川の浄化以外にも、新政権は河川の連結を目玉政策として挙げています。河川の連結は、水の豊富な土地から水の欠乏している土地に供給する広域導水です。インドの全国河川連結プロジェクトが実現すれば、30の河川が連結され、3000の貯水施設、1万5000キロにおよぶ運河網、8700万エーカーの灌漑地ができ、3000の村と72の町に飲み水が行き渡ります。

モディ首相の水政策は海外企業の関心を集めています。水の技術と管理で世界のトップを走るイスラエルとデンマークは、この国家プロジェクトへの参画意欲を示しています。この分野では技術力を誇る日本企業にとっても、大きなビジネスチャンスとなるのではないでしょうか。

帝羽 ニルマラ 純子 インドビジネスアドバイザー

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ていわ にるまら じゅんこ

インド共和国・バンガロール生まれ。法政大学大学院修了。来日以来14年間で、日印コンサルタント会社起業を経て、現在インドビジネスアドバイザーとグローバル人材トレーナーとして活躍。著書には、2013年にインドの諺について日本語で解説した『勇気をくれる、インドのことわざ』がある。インドの諺を日本語で紹介する本の発行は、長い日印の歴史でもこれが初。2014年には『日本人が理解できない混沌(カオス)の国 インド1―玉ねぎの価格で政権安定度がわかる!』 『日本人が理解できない混沌の国インド2―政権交代で9億人の巨大中間層が生まれる』発行。

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