新型コロナ危機で日本に決定的に欠けていた視点 危機管理には「国家戦略」と「ドクトリン」が必須

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日本の「感染症危機政策」に欠けていた視点とは何だったのでしょうか(写真:まちゃー/PIXTA)
昨年1月以来続いている新型コロナ(COVID-19パンデミック)危機。関係者の奮闘が続く一方で、国家としての危機管理手法に対して、国内外から多くの批判が寄せられてきている。では、日本の「感染症危機政策」に欠けていた視点とは何だったのか。
日本政府とWHOで感染症危機管理オペレーションの立ち上げと実行を経験した唯一の日本人で、このほど『感染症の国家戦略 日本の安全保障と危機管理』を上梓した阿部圭史氏が解き明かす。

感染症危機管理の国家戦略とは何か

わが国は、2020年1月以来、中国の武漢を震源地とするCOVID-19パンデミックの危機に直面し、国家的規模の事態対処行動を行ってきた。日本政府・国会・地方自治体・民間機関・学術機関の多くの関係者、そして1人ひとりの国民の長期間にわたる昼夜を問わぬ奮闘により、複数回の緊急事態宣言を経ながらも、幾度も感染の波を越えてきた。

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一方で、その危機管理手法に対して、国内外から多くの批判が寄せられてきたこともまた事実である。そこに戦略はあったのか。そして、現在も戦略はあるのだろうか。いずれにせよ、国民を守るための効果的な事態対処行動を展開するためには、国家戦略が必要である。

そもそも、感染症危機管理の国家戦略とは何だろうか。

それは決して、ワクチンAが効くとか、検査Bがいいとか、実効再生産数がCだとかいう細かな個別の話ではない。これらは、感染症危機管理という営みを構成する重要な要素ではあるが、あくまで、医学的・公衆衛生学的なミクロの一要素にすぎない。そして、医学・公衆衛生学をはじめとする科学も、あくまで感染症危機管理を構成する一要素にすぎない。

感染症危機管理は、「危機管理活動」である。感染症危機管理は、医学や公衆衛生学などの科学に基づく「感染症対処の問題」と捉えられるきらいがあるが、それは問題設定が誤っている。感染症危機管理は、あくまで「危機管理」という概念が先にあり、その中で、「感染症」というタイプの脅威に対して如何に対処するかという問題なである。科学は感染症危機管理を構成する一要素にすぎず、それだけでは危機管理活動は機能しない。感染症危機管理の曼荼羅図(世界観の全体像)は、科学の領域より遥かに大きいのである。

危機管理とは、政府機関に代表される危機管理組織に対し、軍事的概念であるところの指揮統制を行使しながらその機動を操縦し、有限の資源を縦横無尽に駆使しつつ、将来または現在に生じる危機に対処する営みである。

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