ビジネス界が突如「SF」に注目し始めた納得の理由 商品や事業開発に使える「SFプロトタイピング」

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そのための方法論として近年ビジネスの現場で注目を集め、すでにさまざまな領域で実践されているのが、「SFプロトタイピング」と呼ばれる手法だ。

SFプロトタイピング……それはサイエンス・フィクション的な発想を元に、まだ実現していないビジョンの「試作品=プロトタイプ」を作ることで、他者と未来像を議論・共有するためのメソッドである。

SFプロトタイピングで作られるプロトタイプには、

1. ガジェットを介した未来の具現化:未来社会の変化を象徴するガジェット(製品・街・社会制度など)が登場すること
 2. キャラクターからの具体的な眺め:抽象的な視点ではなく、特定の性格や意志、感情を持ったキャラクターの視点から、ガジェットのもたらす影響が考察されること
 3. プロットによる動的なシミュレーション:断片的なシナリオにとどまらず、キャラクターたちの意識や社会状況が時間経過にともない変容してゆくプロセスを描くこと

――などの特徴があり、それらが「SF」という名前を冠している理由である。

先に起こる出来事を考えて逆算する

SFプロトタイピングは「バックキャスティング」的な方法である。「バックキャスティング」とは、先に起こる出来事を考えてから逆算して今を考えることを意味する。対義語は「フォアキャスティング」だ。

フォアキャスティング的な未来予測は、これまで多くの企業が行ってきたことの1つで、現在の科学技術や社会状況から演繹し、実現する確率の高い未来を想定してゆくものである。しかし、この方法では、斜め上の未来は想像しにくい。

先にSF的なビジョンありきで、それを成立させるための技術や、そこに対する対応策を探っていったほうが、VUCA(変動性Volatility、不確実性Uncertainty、複雑性Complexity、曖昧性Ambiguity)の時代と言われるいま、ほかにない独自の強みを得られるのだ。

SFプロトタイピングの可能性をもう少し知ってもらうために、そもそもSFとは何かを簡単に話そう。

「SF」と聞いてあなたが思い浮かべるイメージは何だろうか?

宇宙人、光線銃、アンドロイド、空飛ぶクルマ……荒唐無稽なものから比較的現実的なものまで、なんとなく未来っぽさのあるガジェットを思い浮かべる方が多いかもしれない。もちろん、それも間違いではない。しかしSFとは、単に技術を描くジャンルではなく、何よりも「スペキュラティブ」なものだ。スペキュラティブとは「思弁的」の意味で、現状の社会のリアルを描くだけではなく、現実から外れた未知を、そして、価値を思い描くことを意味する。

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