日本の女性の地位が今なおここまで低い根本要因 上野千鶴子「すべてのしわ寄せがいっている」

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――海外の機関投資家が日本企業にダイバーシティーを要求するため、結果的に女性役員が増えるといった効果はあります。

「外圧」による変化ですよね。動機づけが内発的ではない。いかなる組織も内発的な動機づけがないところでは変革は起きません。いくら外野がとやかくいっても、現状維持で何にも問題がないと感じていたら、あえて変化を起こす必要がないからです。

問題は現状維持のままだと日本全体がジリ貧になっていくということです。変わらなくては現状維持さえ難しいのに、それを当事者たちがわかっていない。だから、大きな企業ほど泥船化して沈没していくでしょう。

アメリカの大手IT企業などの海外企業と日本企業の経常利益率はひと桁違います。労働者の生産性はあれよあれよという間に下がって、OECD(経済協力開発機構)諸国の中ではほぼ最下位です。

男女平等型の企業には優秀な男女が集まる

――日本はどこまで状況が悪くなれば、「現状維持で不都合はない」と言っていられなくなるでしょう。

最終的には、市場の判断が下るでしょう。企業は以下の3つの市場で闘わなければなりません。消費市場、金融市場、労働市場です。

消費市場は多様性と地域性がありますから、きめ細かに対応する必要があります。そこにホモソーシャルな(同性同士が連帯した)同質のオジサン集団が対応するか、それとも女性を含めた多様な人材が対応するかでパフォーマンスが変わるでしょう。

金融市場では投資家にとって魅力的な企業、すなわち利益率が高い企業に投資が集まるでしょう。最近ではSDGsに配慮する投資家も増えてきました。

そして労働市場。優秀な女性は優秀な男性を選び、優秀な男性もだんだん優秀な女性を選ぶようになってきました。何をもって優秀かというと、男性の配偶者選びの基準の中で「稼得力」が重視されてきています。専業主婦ではなく、稼げる女性と結婚したい。そうすると、男も女も共働きができる働きやすい職場を選びます。男女平等型の企業には優秀な男女が集まってくるでしょう。

こうなると、差別型企業にとっては不都合です。広域転勤があって、妻が仕事を辞めて地方や海外に帯同しなければならない――そんな差別型企業は、労働者からノーを突きつけられることになります。広域転勤が人材育成にどれだけの効果があるかも、立証されていません。最近ではようやく経営者のあいだで広域転勤は昇進の必須の条件か否かが議論されるようになりました。

ちなみに、日本のブランド企業のほとんどは差別型企業ですよ。だから、最終的には巨艦沈没の可能性があります。彼らが本当に危機を感じたときには、もしかしたら手遅れかもしれません。現状維持のためにすら変わらなくてはならない。このことを、なぜ経営者はわからないのか、と私は思いますね。

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