実は抜け穴だらけ?「監視社会」中国の実態 ITを駆使して個人情報を収集しても管理は適当?

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無事、質問が済むと、担当者が「住居まで送る」と言う。空港施設を通らず、この別室からそのまま住居まで行くのだ。この住居こそ、前に2週間の隔離生活を送った場所だ。ここに着いたら、社区長が呼び出されてやってきた。彼は、私や迎えに来たバンドのメンバーから「すでに隔離はここで終えている」と伝えられ、どうしたらいいか戸惑っていた。

結局、社区長は私の電話番号を聞いて、「何かあったら電話する」と言って去っていった。心なしか、「ちょっとほっとした」という表情も読み取れる。銀川ではめったにないであろう外国人の隔離の責任者という重荷を背負わされてしまったものの、どうやら隔離はとっくに終わっている。「このままそっとしておけば、何の問題はないのでは……」と感じたのではないか。

銀川市ではすでに1年以上、感染者が出ていないという。ショッピングモールといった施設ではマスク着用だが、街中ではマスクをしていない人も目立つ。小さな商店やレストランでは、入る際に必要なアプリのスキャナーは置いてあるものの、誰もスキャンしない。スキャンしようとすれば「いいよ、いいよ」と言いながら中に入れてくれる。緩い……。

上に政策があれば、下に対策がある

しかし、ここで考えてみてほしい。コロナ禍まっただ中、感染者の拡大がまったく抑えられていない日本で、外国からの入国者にこれだけのことをするだろうか。民主国家、自由の国の日本では、政府が国民に強制することはできない。ただ、「入国者は公共交通機関に乗らないでくださいね」とお願いするのみである。私が受けたように、当局がタダで住居まで送り届けることもない。アプリや携帯電話の位置情報で、どんな行動をしたかを把握することもなければ、社区長のような人に責任を負わせて、隔離されているかどうかを見届けさせるようなこともない。

自由を謳歌してコロナがまだ蔓延している日本。監視社会ではあるがコロナを封じ込め、次に行こうとしている中国。どちらが幸せなのかは、その人によって違うかもしれない。ただ、私には中国人がその「監視」に対して不満を持っているようには見えない。彼らを見ていると、社会を維持するために「仕方ないこと」として「やらねばならない」と思っているように感じる。

もちろん、われわれ外国人は新疆ウイグル自治区のウイグル人や香港での人権問題から目をそらしてはいけないと思う。しかし、ここで暮らす中国人は、その情報をVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)に接続して国外の情報を探そうとしない限り、知ることができないということもあり、あまりそういった問題に関心はなさそうだ。

それは、前述したような「スマホが使えない老人はどうするんだ?」という問題に対して、日本人なら「ちゃんと老人にも優しいシステムを作るべきだ」と考えるが、中国人は「自分の周りで困っている老人がいたら自分が教える。それでいい」と考えているように思えて仕方がない。「上に政策あれば、下に対策あり」。中国人は長い歴史を、ずっとこうやって生きてきたのだ。

もう一度繰り返すが、中国人は「地縁、血縁、金」しか信じない。地縁とはご近所さんや職場など自分が出向く場所での縁、血縁とは血のつながりのある家族や親しい友人たち、金とは白猫でも黒猫でもネズミさえ捕れればいい猫になって得るもの。この国はこれで突き進んできて社会が形成、成熟してきた。

監視カメラ? 買い物情報が政府に筒抜け? それがどうしたの? 俺たちはそれで経済は成長してコロナ禍もくぐり抜けた。俺たちは幸せだけど、君たちは幸せかい? 中国社会は、私にそう問いかけているような気がしてならないのだ。

ファンキー末吉 音楽家

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ふぁんきーすえよし / Funky Sueyoshi

1959年、香川県坂出市生まれ。1980〜90年代に爆風スランプのドラマーとして活躍。大ヒット曲「Runner」「リゾラバ」などの作曲者でもある。現在、日本と北京で音楽活動を精力的に続ける。著書に『中国ロックに捧げた半生』『日本の音楽が危ない~JASRACとの死闘2899日』『平壌6月9日高等中学校・軽音楽部北朝鮮ロック・プロジェクト』『大陸ロック漂流記―中国で大成功した男』『ファンキー末吉の10日で覚える「ひとこと」中国語会話』など。

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