日米地位協定を放置する日本が抱える根本問題 バイデン政権の対日期待と現実のギャップ

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また、政府が自治体向けに公開している国民保護計画モデルは、総務省消防庁が策定しており、防災の考え方が基本になっている。ミサイル攻撃に「近隣の堅牢な建物や地下街など屋内に一時退避」で対処できるのかは疑問だ。有事に戦場となる島嶼の住民は守られないのではないかという不信感から、南西防衛はその賛否をめぐる各島の住民同士の対立を招いている。

住民の不信感の根深さは、配備後も弾薬庫の設置やミサイル訓練の制限という形で表れている。例えば宮古島では、防衛省は住民に対して、駐屯地に持ち込む火器は「小銃弾や発煙筒など」と伝えていたが、実際には中距離多目的誘導弾や81ミリ迫撃砲弾といった威力の大きな砲弾を持ち込む計画だったことが、2019年4月に東京新聞の特報で発覚。自衛隊配備に賛成する住民も反発した結果、搬入済みの迫撃砲弾などは撤去された。

現在、宮古島で弾薬庫を建設中(2020年3月までに完成予定だったが、現在裁判で係争中の一部の土地取得ができていないため遅れている)だが、陸上自衛隊の駐屯地から約10キロメートル離れている。駐屯地が島の中心部にあるため、地対艦・地対空ミサイルを保管する弾薬庫は民家の少ない地区に造ることで地元と折り合いをつけた格好だ。また奄美大島や宮古島では、ミサイルの実弾砲撃訓練は行えないので動作訓練のみだ。実弾を使った訓練は米本土まで行かなければできない。

日米地位協定という障害

本土各地で分散して行われている自衛隊基地の共同使用・訓練も、地元住民の強い反対を受けているのが現状だ。その背景には日米地位協定の問題がある。

拙著『日米地位協定-在日米軍と「同盟」の70年』でも詳しく解説しているが、日米地位協定には米軍の飛行訓練に関する規定が存在しないので、飛行経路や時間、低空飛行などの危険な航行を規制できない。陸上・海上の訓練も同様である。また米軍は、民間空港・港湾の優先的な緊急使用が認められており、その際の使用料も負担する必要がない。そのほか、米軍が自衛隊基地を使用する際には自衛隊に適用される国内法令や大臣命令、自粛措置は適用されない。

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