金儲けがうまい人に知ってほしい「伝説の講演」 思想家・内村鑑三が若者に説いた言葉の重み
1894年、今から100年以上前、明治時代のとある夏の日、日本を代表する思想家・内村鑑三が当時の若者を集めて講演を行いました。後に『後世への最大遺物』というタイトルで本としてまとめられたこの講演は、今も読みつがれ、星野佳路氏(星野リゾート代表)やアフガニスタンで人道支援を続けていた故・中村哲医師ら多くの人に影響を与えています。
内村がこの講演で語ったのは、「死ぬときに何をのこすべきか」ということ。意外にも内村は、第一にのこすべきものはお金であり、第二には事業であると語ります。キリスト教徒でもある内村が第一に語ったのはなぜお金なのか? そして誰もがのこせる自分だけの価値のあるものとは何か?
「お金を忌避する人に知ってほしい『伝説の講演』」(2021年3月10日配信)に続いて、100年以上前の名著を現代語に読みやすくし、佐藤優氏が解説を加えた新刊『人生、何を成したかよりどう生きるか』より一部を抜粋しお届けします。
実業家が何人いても日本の役に立たない
事業をするのに、清らかな目的をもって財産をつくる人が出てこなければ、私たちの国に、本当の実業家がいないのと同じです。こういう目的の実業家でなければ、実業家が何人いても、国のためにはなりません。
憲法(大日本帝国憲法のこと)発布の際に貧困者200人に1万円……1人あたり、せいぜい50銭か60銭くらいのお金を配った人もいたようですが、そんな中途半端な慈善はしない方がかえっていいくらいです。
三菱財閥の岩崎弥太郎のような、何千万円という財産家は、もしかしたら、今後、慈善事業をするかもしれませんが、これまで社会的に大きな力を手に入れ、立派な家と別荘を建てたものの、日本の社会はそれによって何一つ恩恵を受けていません。
しかし、今の日本で、キリスト教徒が世の中に出て、実業家になって、財産を築き、自分のためでなく、神の正しい道、宇宙の正しい法則にしたがって富を国家のために使うのだとしたら、そういう形で、本当の実業の精神が生まれたことになる、そうあってほしいと私は願っています。
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