新型コロナワクチン「筋肉注射」3つの落とし穴 「ドレスコード」を事前に周知しておく必要性

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もちろん皮下注射と筋肉注射の打ち方の違いは、医師や看護師なら過去に必ず習っている。だが、それだけでは「ペーパードライバー」と一緒だ。あるいは、注射に慣れた医師や看護師ほど、皮下注射のクセがどこかで出かねない。左側通行に慣れた日本人がアメリカで運転し、「左折時につい左車線に入ってしまった」なんていうミスが起きるのと同じだ。

そもそも注射全般に関して、古い知識がアップデートされていない場合もある。例えば、かつては「注射はゆっくり、そっと、慎重に」が当然だった。だが、接種スピードが速いほうがよいことは、アメリカ疾病対策センター(CDC)も明示している。ゆっくり注射を打つと針が組織内に長く留まり、ごく微細な振動とあいまって、痛みが強まるからだ。

医師や看護師が不慣れだと、激痛トラブルを招く?

上記を踏まえ、1つ目の気がかりが、激痛トラブルだ。

筋肉注射に慣れている医師や看護師がどれだけいるだろうか。正しい知識に加え、コツをつかんでいないと、必要以上の痛みを与えることにもなりかねない。

万が一、筋肉注射の薬液を誤って皮下に接種してしまったらどうなるか。今回の新型コロナワクチンではまだ報告はないが、打った直後も、その後も、痛みや炎症が強く出る可能性がある。

皮下注射では、薬液も皮下への注入を想定して作られている。pH(酸性度)や浸透圧が細胞液と同じにしてあり、低刺激だ。皮下では薬液の吸収も遅く、皮膚表面に赤身や腫れなどの局所症状が現れやすいことを考慮したものだ。

ヒトの体液は、すべて弱アルカリ性(pH=7.40±0.05)で、浸透圧は285 ± 5 mOsm/kg。例えば、広く皮下注射の行われるインフルエンザHAワクチンだと、「pH:6.8~8.0、浸透圧比(生理食塩液に対する比):1.0 ± 0.3」と「インフルエンザワクチンの添付文書」(厚労省)にあり、性質はほぼ体液に等しく作られている。

一方、筋肉注射では、薬液が皮下よりも速やかに吸収される。効果が現れるのが早いだけでなく、油性や混濁性など刺激の強い薬液でも投与することができる。

それを前提にファイザーの新型コロナワクチン「コミナティ筋注」の添付文書を見てみると、「pH6.9~d7.9、浸透圧 425~625mOsm/kg」とあり、1容量0.45mLを日局生理食塩水1.8mLで希釈することとなっている。日局生理食塩水は、浸透圧はヒトの体液に等しい285 ± 5 mOsm/kgで、pH4.5~8.0である。希釈後のワクチンは、浸透圧は体液よりやや高く、やや酸性に傾くことになる。

つまり、ワクチン自体の刺激はやや強めだ。痛みの感じ方や炎症反応は人によって違いもあるが、間違いなく筋肉内に注射するようにしたい。

川崎市の集団予防接種訓練の映像を見せてもらったところ、模擬接種ではあるが、接種位置が低かったり、完全に垂直でなかったり、ゆっくり刺したり、といった様子が散見された。また、首相官邸がTwitterで公開している医療従事者への先行接種の映像でも、逆血確認が行われていた。

このような打ち方では痛みが増し、筋肉注射への誤解が広まりかねない。

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