ゲレンデに客を呼び戻した白馬五竜スキー場の挑戦

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さらに、一流のスキー用具を提供するレンタルショップを設置した。スキー場のレンタル店で借りると、大抵の場合、使い古したボロボロの用具が出てくる。だが、いくら初心者とはいえ、それではスキーの楽しみを十分に感じることなどできるはずがない。つまり、マーケットが育たない。駒谷社長は周辺宿にもレンタルの取り扱いをやめてもらった。多くの宿がろくなチューンナップもしないまま、老朽化した用具を貸し出していたからだ。これに刺激されて、周辺のレンタルショップも、その後、用具を入れ替えたという。

スキースクールには、ゲレンデに近い駐車場と、昼食を取るための専用の部屋をセットにしたファミリー向けパックを創設した。スキーの裾野を広げるには、子供が重要な役割を担うと考えたからだ。現在、エンレイの収入の約40%は、索道以外の観光収入。運輸業からの脱皮は、着実に進んでいる。

また、サービス業として、ソフト面の満足度を担う社員の意識を変えるため、成果主義を導入した。36人の社員全員に、お客が何を求めているか、それにどう応えるかを考えさせ、1年間の目標を立案させる。その結果を社長ほか部長3人による評価委員会にかけ、各人の年俸を決める。従業員持ち株制度も取り入れ、全株式の20%を充てている。

なるほど、リフトに乗れば係員に気持ちよく声をかけられるし、施設のトイレは頻繁にスタッフがチェックに訪れ、清潔に保たれている。「従業員のモチベーションは、確実に向上した」と駒谷社長は胸を張る。

こうして、白馬五竜スキー場は着実にリピーターを増やし、クチコミを広げ、売り上げを伸ばし、資金を新たな投資に充ててきた。07年はメインの高速リフト架け替えのほか、自動降雪機を2台増設。エスカルプラザには夏用に冷房を導入し、5億円の設備投資を実施した。多くのスキー場が、20年前の老朽設備を放置したままなのとは対照的だ。

経営の巧拙で明暗 再々編が起こる可能性

これまでスキー場の大半は、自治体や地元住民の共同出資による小さな企業体によって運営されてきた。しかし、ただリフトを動かしていればよい時代は、とうに過ぎた。集客努力をしなければ客は来ないし、競合するのは同じスキー場ばかりでなく、レジャー産業全体だ。カネを落とさせるという意味では、あるいはすべての産業が競争相手。一流の経営能力が、スキー場の運営にも求められるようになった。経営の巧拙でスキー場の明暗が決まる、という認識が広まりつつあるのである。

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