「平時でも罰則科せる」特措法改正の重大な欠陥 「まん延防止等重点措置」というグレーゾーン

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感染症法の改正にも簡潔に触れる。今回の政府提案によれば、自宅・宿泊療養の協力要請を規定し、これに応じない場合には入院勧告がなされ、入院勧告に従わない場合は罰則が適用される。これによって入院への実効性が担保されている。これは明らかにおかしい。

何らかの法の制定や改正で誰かの自由や権利を制限する場合、その制限の目的とそれを実現する手段の関連性が吟味される。

今回の感染症法改正の目的は、新型コロナウイルス感染拡大と医療崩壊の防止であるはずだ。しかし、そもそも病床が逼迫しているという前提から出発しながら、今回の法改正では、自宅・宿泊療養で「足りる」人を、罰則をちらつかせてまで事実上強制的に入院させることができる。つまり、入院の必要性のない人たちを大量に病院に送り込むこととなり、むしろ病床を逼迫させる。

立法事実の点からも問題が残る。「入院拒否」そのものが感染拡大につながったという事実がどこまで積みあがっているのか、厚労省は明らかにしていないのだ。医療崩壊を防止するという目的にとって、今回の入院勧告という手段は関連性を有しているどころか、もはや有害である。

感染症法は緊急事態宣言とは関係ない

感染者や患者については、積極的疫学調査に対する虚偽答弁や調査拒否に罰則が設けられる。調査事項としては、性別、年齢、連絡先、居住地、症状、経過などから始まり、行動歴などの行動に関する情報や予防接種などの過去の状況に関する情報など、個人にとってかなりセンシティブな情報を強制的に徴収することとなる。

この点も、行動歴や病歴などの高度なプライバシー情報を事実上強制取得するほどの立法事実の精査を含めた合憲性の検討がなされたのだろうか。罰則によるプライバシー開破の強制は、検査自体への拒否・隠蔽感情を高め、結局のところ感染拡大防止という目的の達成を阻害してしまう手段になりかねない。

しかも、上記の改正感染症法の措置は特措法とは関係ないため、緊急事態宣言とは関係なく、常時このような法運用がなされるのはさらに問題だ。以上のとおりであり、感染症法改正案は、撤回すべきである。

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