資生堂社長、値引き販売で異例の「お詫び文」 自社ECでの安売りが化粧品専門店の反発を買う

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専門店の不満はそれだけではない。今回の値引きを行う前に、資生堂は専門店に告知しなかった。前出の専門店オーナーは、値引きセットが発売された直後に同業からのメールを受け、今回の施策を知ったという。

専門店の多くは中小零細の個人事業主。GMS(総合スーパー)やドラッグストアだけでなく、メーカーまでもが加わって値引き競争を加速するのであれば死活問題だ。さらに古参の専門店であればあるほど、資生堂ブランドを一緒になって作り上げてきたという自負が強い。

そのような危機感から、専門店の組合である全国化粧品小売協同組合連合会は資生堂に抗議をし、今後は同様のキャンペーンをやらないとの約束を取り付けたという。その結果、11月11日から販売を始めた値引きセットは11月30日で提供をやめた。

過剰在庫の消化を急いだ?

今回の値引きキャンペーンに対しては社内からも疑問の声が聞かれる。ある資生堂社員は、「破格すぎる値段。カウンセリング化粧品の値引き販売はブランドイメージを悪くする」と懸念する。

資生堂が値引き販売を敢行した背景には何があったのか。2019年に那須工場(栃木県)を稼働し生産能力を増強していた同社だが、そこにコロナ禍が直撃した。売上高は2020年1~9月時点で、前年同期比20%以上減少している。「工場新設とコロナ禍によって過剰になった在庫の消化を急いだからではないか」。専門店オーナーたちの指摘はおおむね一致している。

資生堂は詫び状の中で次のような約束をしている。

「今回の件を教訓とすべく、直川を中心にその原因分析と対策構築を行なっておりますので、今後このような問題が二度と起きることのないよう、全社員心を合わせて取り組んで参ることをお約束いたします」

文中の「直川」というのは、国内での販売やマーケティングを担う資生堂ジャパン社長の直川紀夫氏のことだ。2020年10月に魚谷氏より社長職を引き継いだ。

詫び状から約1カ月。原因分析と対策構築はどう進められているのか。在庫消化を急いだという指摘の妥当性も含めて、資生堂に質問した。だが、同社広報は、今回の値引きキャンペーンに関して「何もコメントできません」と答えるにとどめた。

コロナ禍で対面販売が苦戦する中、ECに注力するのは当然の経営判断であろう。だが、今回の値引きキャンペーンは販売店への配慮を欠いた施策だったと言わざるをえない。専門店オーナーたちの信頼を取り戻すためには、原因分析や対策構築だけでなく、明確な説明が求められる。

【情報提供のお願い】東洋経済では、化粧品業界が抱える課題を継続的に取り上げています。こちらのフォームでは化粧品メーカーの本部社員や美容部員、化粧品専門店の方々からの情報提供をお待ちしております。
星出 遼平 東洋経済 記者

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ほしで・りょうへい / Ryohei Hoshide

ホテル・航空・旅行代理店など観光業界の記者。日用品・化粧品・ドラッグストア・薬局の取材を経て、現担当に。最近の趣味はマラソンと都内ホテルのレストランを巡ること。

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