成長戦略の骨子に反応鈍い市場 「骨太の議論」足りないとの声も

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 6月10日、日本政府が6月下旬にまとめる成長戦略の骨子が明らかになったが、市場の反応は鈍い。写真は昨年11月、都内で撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 10日 ロイター] - 日本政府が6月下旬にまとめる成長戦略の骨子が明らかになったが、市場の反応は鈍い。基本方針の段階とはいえ、将来ビジョンが見えにくく、具体策の中に踏み込み不足と見られる項目が多いためだ。

メニュー自体には、市場が期待している項目が並んでいるものの、実現できるのかどうかは未知数。日本経済の潜在成長率を引き上げるための「骨太の議論」が足りないとの声もあり、日本買いには結び付いていない。

乏しい海外勢の反応

ロイターが入手した「日本再興戦略」の骨子案や、政府が公表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の骨子案に対する10日の市場反応は、かなり限定的だった。日経平均<.N225>は反落、6日ぶりに1万5000円も割り込んで引けた。東証1部売買代金も1兆7289億円と薄商い。「海外勢の反応は乏しい」(外資系証券)との見方が大勢だ。

2つのパッケージがどのような組み合わせになるのか、海外勢にとって「わかりにくい」(別の外資系証券)という面もあるが、「日本が変わるというイメージがわかない」(同)との見方も広がりつつある。

今回の「骨太方針」で目立ったのは、人口・少子化対策だ。50年後に1億人キープといった目標を掲げ、第3子以降への重点的な支援など予算対策を盛り込んだ。

しかし、市場では、懸念は解消されていないという。「女性の社会進出促進と少子化対策は、それだけでは相反する動きだ。予算を付ければ少子化が解消されるかは不明。将来の生活不安などをどうするかといった根本の対策の議論が欠けている」(第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏)。

安倍政権の下で「骨太方針」と「日本再興戦略」が策定されるのは2回目。1年前の「骨太の方針」でも、「社会保障支出も聖域とはせず、見直しに取り組む」と意欲を見せたが、特段進展はなく、若者が将来、年金がもらえるか不安に思って消費を抑える構図は変わらない。

物価は上昇したが、賃金は上がらないなか、足元の消費がそれなりに堅調なのは一部の高額所得者がけん引しているためだとの指摘もある。

法人税減税の効果は本当にあるのか

もう1つの注目点である法人税減税に関しては、今回の骨太方針では「民間投資を喚起し、対日直接投資を促進するため、法人税改革を推進」とされたが、時期や幅は明示されず、今後の協議に持ち越された。

現時点では、あくまで「骨子案」の段階であり、評価は時期尚早ともいえるが、税制中立にこだわり過ぎれば、大胆な減税は望めない。

また、減税すれば、本当に日本の企業活動が活発化するのか、需要が縮小する日本に海外から企業が誘致できるのか──。外国人投資家に反応が良さそうなメニューだが、その市場では、明らかになった骨太方針や日本再興戦略についいて、市場におもねりすぎるとの声も出ている。「骨太の方針という割に骨太の議論が十分なされていない」(エコノミスト)と手厳しい意見もある。

「日本企業のキャッシュは潤沢。多少、減税しても投資や賃金は変わらないだろう。コーポレートガバナンスで強制しても、本当に有望な投資先が見当たらないのでなければ、非効率な歪みを生むだけだ」とシティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は指摘する。

政府主導のGPIF改革に懸念も

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革については、「日本再興戦略」のなかで、「公的・準公的資金の運用見直し」として触れられたが、公的資金の運用に政府が口出しすることに懸念を示す声もある。

田村憲久厚生労働相は今月3日、安倍晋三首相にGPIFの基本ポートフォリオの早期見直しを報告。安倍首相から了承、指示を受けた。田村厚労相が6日の閣議後に記者会見し、明らかにした。

低金利が続く中でのポートフォリオ見直しは必要だとしても、年金という国民の資産の運用を株式というリスク資産で増やすべきかには異論も多い。日本株市場の需給が改善したとしても、あくまで一時的だ。高値つかみになる恐れもあり、その場合の損失は国民負担となりかねない。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏は「オバマ米大統領が米社会保障信託基金に株を買えと指示することは想像さえできない。将来に禍根を残すことにならないか心配だ」とする。

成長戦略はすぐに効果が表れるものではなく、短期的な材料を欲しがる市場には物足りない可能性もある。

しかし、曲りなりにも日本経済が上向き、改革を進める余裕ができたところで、具体策や効果が疑わしいメニューばかりが並べば、投資家は失望しかねず、株高をけん引力にしてきたアベノミクスにも急ブレーキがかかるおそれがある。

アライアンス・バーンスタインは日本経済の潮目が明らかに変わったと判断、日本株をオーバーウエートにしてきた。そのうえで、同社の株式運用部門責任者のシャロン・フェイ氏は、成長戦略についてアベノミクスの中で最も重要だと指摘。「すべての投資家が見ている。今後12─18カ月の重要ファクターになってくるだろう」との見方を示している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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