農業は「現状維持」が最も過激な考えだ 規制改革会議委員の金丸恭文氏に聞く

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かねまる・やすふみ 1954年生まれ。89年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)を創業し現在、会長兼社長。2013年1月から内閣府規制改革会議委員。

政府の規制改革会議は5月22日、農協法で定められた全国農業協同組合中央会(JA全中)制度の廃止、単位農協が行っている金融事業の移管、農業生産法人への企業出資規制緩和などを盛り込んだ改革案を明らかにした。改革案をまとめた農業ワーキング・グループ座長の金丸恭文委員に話を聞いた。

──改革案のポイントは。

就農者の高齢化が進んでいる。39歳以下の人口が4%しかない現状は、異常事態といえるだろう。このままでは数年で日本の農業は崩壊してしまう。若者から見て魅力あるようにすることが重要だ。農業を成長産業へと切り替え、リスクを取ろうとする農業者から見て最適な制度や組織になるように改革しなければならない。

重要な点は農協、農業生産法人、農業委員会の三つをセットで改革することだ。農協については、JA全中の法律に基づく農協への指導権限を廃止し、自主的な任意組織として再定義し、単協が主役であることを明確にする。農協の貴重な収益源になっている金融事業は内在するリスクを軽減するため農林中央金庫などに移管し、安心して本業に特化できることも重要だ。

農業生産法人に対し、企業の出資比率を25%以下に抑える現状の制限は、農業関係者に75%のリスクを取るように求めているのと同じ。これは農業関係者にとって負担が大きい。せめて50%未満までは企業が出資できるようにすれば、インセンティブが高まり、法人化が進む。遊休農地の解消に取り組むための農業委員会の改革も必須だ。

──JA全中会長は「JAグループの解体につながる」と反発している。

誤解があるように思う。JA全中は指導する側、単協は指導される側という関係を法律で決めるのは時代に合っていない。指導を仰ぐかどうかは単協が決めればよい。「農業者のための組合」という原点に返ることが重要だ。

──与党からの反発も強く、改革案を成長戦略に盛り込むためには安倍晋三首相の決断力が試されそうだ。

首相は「農業改革を断行していく」と発言している。急降下している飛行機は操縦桿を大きく引かないと機首が上がらず墜落してしまう。何もせずに現状維持を決断することが最も過激な考えだと思う。「現状より未来に、今日より明日に」目を向けることを求めたい。

──若者の就農は増えていくのか。

おいしいものを作る農業者の苦労が伝われば消費者は心から喜んでくれる。今後は顔の見える農業者と顔の見える消費者の時代だ。双方の満足度が高くやりがいのある農業になれば、間違いなく魅力的な就職先になると思う。

週刊東洋経済2014年6月7日号「このひとに聞く」より)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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