勝利だけにあらず。これがドイツの秘密 第6回 半世紀前から広がったスポーツの幅

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ドイツの指導者が体罰を行わない理由のひとつに勝利至上主義でないことが考えられる。その背後には幅広いスポーツ像があり、勝利はあくまでもスポーツのひとつの価値と考えられているからではないだろうか。

体罰マネジメント

上下関係を重視する日本(体育会系)に対して、フラットな関係をより強調するドイツ(スポーツクラブ)。両国を比較すると、第3回でも述べたように、どうも社会構造的な人間関係が異なる。これが、いじめが発生しやすいか否かのひとつの違いだろう。

 では指導者による体罰はどうだろうか。体育会系の世界では、

①懲罰
②チームの統率
③モチベーション向上・能力の最大発揮

 これらを目的に体罰が使われてきたのではないだろうか。

 特にモチベーション向上や能力の最大発揮のために「気合」「精神力」を重視する傾向が日本にはあり、声を出したり、身体を刺激することでそれらが高まるという考えが伴う。だから典型的な体育会系の指導者と生徒の関係において、気合を入れるために指導者が叩いたとしても、両者には暴力という認識ないことも多かったのではないだろうか。そして、こういったことは根性論に収斂され、肯定化される。

 加えて、暴力に対する感覚も欧米と異なる。日本の事情をよく知るドイツの専門家は、スポーツにおける暴力は欧米でもグレーゾーンがあるが、それにしても日本は欧米に比べて暴力に対するアレルギーが少ないとも述べる。

 いずれにせよ、体育会系での体罰は、強い部活を、試合に勝つチームを作るためのマネジメント手法だったといえよう。さらに学校スポーツの場合、名声を高めたいという経営上の理由が強いと、部活の指導者にも「勝たせなければ」というプレッシャーがかかる。指導者が体罰マネジメントしか知らない場合、体罰がエスカレートするのは必然的だ。

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