第6回 研究能力を使いこなす企業は強い?! 後編

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研究手法を現実の経営に活かす

これは何も米国だから起こったことではありません。これと似たような日本の事例を筆者は一つ知っています。

 H君は経営学では日本のトップ校の一つと考えられている大学で博士号を取得し、これもよく知られた大学で准教授を務める将来を嘱望された非常に優秀な研究者でした。しかしある事件をきっかけに彼は大学を辞めコンサルタントに転身しました。

 コンサルタント先は高い技術力があるにもかかわらず、製品分野を広げすぎて収益が上がらず悪戦苦闘しているという、従業員数百人の部品製造会社でした。H君はラブマンと同様に、その企業のあらゆる情報を集め、分析し、いくつかの事業を整理統合するよう社長に進言しました。そして、社長は創業者である会長の賛同も得てH君の進言どおりに改革を実行しました。

 ようやく事業が好転し始めた矢先、リーマンショックが日本を襲いました。売り上げが落ち込み多くの企業が倒産する中、一足早く不良採算部門を整理し、いわゆる筋肉質に変わっていたこの会社は、苦しいながらも何とか難局を乗り切ることができました。まさに間一髪でした。

 危機を乗り切った会社はその後順調に業績を伸ばし、現在はかなりの高収益を実現しています。企業価値もH君が関わり始めたときの二倍以上になったそうです。現在H君はコンサルタント先だったその部品会社に請われて、若い二代目社長のスタッフとして就職し、社長の片腕として取締役会にも出席して社長と共に会社の将来ビジョンを策定しています。

 ラブマンとH君、たった二例ですが、この二つの事例は、経営学の研究者は実践的な経営においてもある程度の成果を上げることができる可能性を示しています。経営学の研究者だったことは関係がなくて、単にこの2人が優秀だっただけなのではないか? という意見もありそうですが、重要な点は2人とも自分の会社を研究し、正確な状況把握を行った、ということです。

身 につけていた経営理論や成功事例に基づく教えを単に実践したというのではなく、研究者として自ら調べ、自ら自社を判断するための論理を構築し、具体的な対策を編み出したのです。座学で身に付けた知識を当てはめたのではありません。研究手法を身に付けていたことが重要なのです。

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