第6回 研究能力を使いこなす企業は強い?! 後編

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求められるのは、課題解決能力ではなく、課題発見能力

ではそれはどのような人なのでしょうか。絶対的に求められるのは、利益に直結している個別固有情報と一般的な情報をより分け、一般的ではあるが解決が望まれる未知の課題を抽出する能力です。そして基礎的、あるいは学術的な情報や知識に現実の諸事情を加えて実用化する能力です。一般に前者は課題発見能力、後者は課題解決能力と呼ばれています。

 もしすでに知られている基礎的・学術的知識を応用すれば課題が解決されることがわかっているならば、求められる能力は課題解決能力だけです。受験問題を速やかに解く能力と類似しています。日本が欧米を追いかける時代では、欧米で生まれた知識を日本の状況に合致させるよう応用するために必要な能力でした。

 しかし、技術でも、社会制度でも、そして企業経営でも、世界の最先端を走ることを余儀なくされている現在では、日本社会、日本企業自らが世界の誰もが未経験の問題を解決しなくてはなりません。問題を分析し、問題を解決するために解くべき未知の課題を抽出する能力、課題発見能力が重要なのです。そして、この課題発見能力は研究者に最も必要とされる能力なのです。

 先に述べましたが、研究者が最も望むことは、より多くの人に役立つ研究をすることです。逆に言えば、雑多で複雑な社会から、より多くの人に役立つ課題を見つけ出す能力が研究者には最も求められる能力なのです。

 少なくともなにがしかの学術論文を発表し、それなりの評価を受けた研究者であれば、その能力の高い低いは別として、自らの研究テーマを決めるために、現実を分析整理し、より汎用性のある未解決の課題を見つけ出す経験をしているはずです。すなわち、研究経験を持って企業に勤める企業研究者こそが、企業と大学を繋ぎ、双方に優れた成果を実現させるキーパーソンでもあるのです。

 ですから、社会科学の企業研究者が理工系の企業研究者に比べて圧倒的に少ないという事実が「日本には技術があるのにそれが産業競争力に活かされていない」という状況を作り出し、国際社会での社会科学の学術的評判が理工系の学術的評判に比べてはるかに低い、という状況を作り出しているのだと思います。

 そう考えると、わずかに存在する社会科学の企業研究者とはどのような人たちなのでしょうか? テレビのニュース番組や新聞、雑誌の経済ニュース、経済トピックスのコーナーに○○総研と言った民間のシンクタンクに勤める研究者が時々登場します。彼らがコメントする対象のほとんどが市場動向であり、製品トレンドです。

 それらの知識は学術的には主としてマーケティング分野で扱われます。ですので、Scopusの“Business, Management and Accounting”の中で“Marketing”だけが国別論文被引用数で3位であり、アジア1位、対米国論文被引用数比率で13%というのは偶然ではない、と思っています。

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