「ボールと逆サイドにいるサイドバックは、もし相手が外から回り込んで裏を取ろうとしても、そちらには体を向けず、まず中を見よう。くどいようだが、中央をいちばんやられたくないからだ」
解説:ザックが一貫して教えてきた「体の向き」の一例だ。相手が日本から見て左から攻めて来た場合、ボールから最も遠くにいるのは右サイドバックの内田篤人だ。通常、相手が外から回り込んできたら、内田はボールとその相手を同時に視野に収めるように体の向きを作る。だが、ザックは思い切って外の相手は捨て、中に集中することを求める。それによって、中央の守りが強められるからだ。
「ボールから遠いボランチが、チームの状況を保つために声を出そう」
解説:ボールから遠い選手は、プレーに直接関与する可能性が低い代わりに、チームの目になることができる。もし遠藤保仁と長谷部誠がボランチでコンビを組んだら、どちらがリードするということではなく、ボールの反対側にいるボランチが声を出して陣形をコンパクトに保つ。
「FW、MF、DFの各ラインを15メートルに保とう」
解説:具体的な距離の指標を示すことで、全体をコンパクトにする意識が高まる。
「ボールホルダーにアプローチに行く選手のスピードに合わせて、全体が動こう」
解説:もしプレス役の選手がゆっくりと相手ボール保持者に近づけば、全体もゆっくりと距離を保ちながら移動する。逆にスピードに乗って近づけば、全体も速く動く必要がある。プレス役の選手の動く速さが、全体の速さを規定する。
「ボールが動いたら、チーム全体で動くイメージを持とう。相手がサイドチェンジしたとき、(酒井)宏樹とモリゲ(森重真人)の距離が離れていた。この場合、背後の選手が宏樹に合わせないといけない」
解説:日本から見て左から右へサイドチェンジを出されたら、右サイドバックの宏樹が外に移動する必要がある。そのとき気をつけるべきは、右センターバックの森重と宏樹が離れすぎて、中央にスペースができてしまうことだ。宏樹は外側に体を向けているため、中央をカバーすべきは背後にいる森重。後者が前者に合わせる必要がある。
どの指示も具体的で、“なぜそれをすべきか”という理由が実に明快だ。さすがは「守備の国・イタリア」でホテルマンからプロ監督までのし上がった指揮官。守備理論の完成度は極めて高い。
メンバーを固定せず、日ごとに組み合わせをシャッフルしており、競争意識も高められている。ゆったりとした時間が流れる温泉町において、最高のスタートを切った。
ただし、大きな期待と同時に、小さな不安も覚えた。
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