「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の「点と線」

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「岩盤規制」の雇用に目を付けた経産省

成長戦略に盛り込むには、具体的な制度設計が必要となる時期にもかかわらず、この日のペーパーが甘利が答弁に苦しむような曖昧模糊としたものになったのには理由がある。

そのおよそ2週間前、4月9日に開催された産業競争力会議雇用・人材分科会。会議では「多様な正社員(限定正社員)」と「解雇の金銭解決制度」について議論されたが、実は分科会の開催前、内閣府副大臣の西村康稔、厚生労働副大臣の佐藤茂樹を中心に関係者が集まり、西村の部屋で非公式な会合を持った。議題となったのは、22日の合同会議で初めて議論されたことになっている「新たな労働時間制度」である。

この場で関係者に示された長谷川ペーパーの「原案」には、あいまいさのかけらもなかった。現在の労働時間制度は工場労働者を想定した仕組みであり、ホワイトカラーには適さない、それに代わる新たな労働時間制度として「スマートワーク」なるものを創設するというものだ。

このスマートワークでは、対象者の範囲に業務や地位の限定を設けず、本人の同意と労使の合意に委ねることで、幅広い労働者の利用を可能にするとしている。実際そこで図示された対象者のゾーンには、「ヒラ社員」の最末端、つまり新入社員まで含まれている。本人の同意と労使合意さえあれば、どんな業務内容の新入社員でも労働時間規制が及ばず、残業代なし、深夜・休日割り増しなしで働かせることができる。

現状でも経営者と一体的な立場にある「管理監督者」、専門職や企画職で適用される「裁量労働制」では、労働時間規制は原則適用されない。また第1次安倍政権の2006~07年当時議論された「ホワイトカラー・エグゼンプション」のように、管理職など一定の層の労働者を労働時間規制の適用除外とする構想が、議論の俎上に載ったことはある。

だがこのスマートワークのような、およそすべての労働者をその対象とする提案は初めてだ。昨年12月に出された産業競争力会議雇用・人材分科会の提言でも、労働時間規制の緩和に関しては、まずは年収1000万円以上の専門職を対象に導入を検討するとされており、原案はそこから大きく逸脱するものだ。ただ、非公式会合の出席者からは、原案を問題視する声は上がらなかった。

会合では原案の読み上げこそ長谷川が行ったが、その後の出席者からの質疑への対応を一手に引き受けたのは、経済産業省経済産業政策局長の菅原郁郎、このスマートワーク構想の発案者である。

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