「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の「点と線」

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「時間ではなく成果で評価される働き方にふさわしい、新たな労働時間制度の仕組みを検討していただきたい」

それでも22日の会議の最後に、安倍が発したこの一言は大きい。この「首相指示」により、厚労省が主張する現行制度の見直しだけでは済まなくなった。さらに安倍は5月1日、英国ロンドンの金融街シティでの演説後の質疑応答でも、労働時間規制の緩和に強い意欲を示した。

「もっと柔軟な働き方ができるように労働法制を変えていく。やり遂げなければ日本は成長できない」

経産省の振り付けで、本格的に走り出した労働時間規制の緩和。Aタイプ、そしてその本音であるスマートワークまで近づくかは世論の動向次第だが、規制緩和に向け一定のレールが敷かれたことは間違いない。

解雇解禁とセットで萎縮効果は甚大

一方、日本の労働環境の実態はどうなのか。7年前にホワイトカラー・エグゼンプションを導入断念に追い込んだのは、過労死助長につながりかねないとの批判だった。

当時はいざなぎ景気を超えたとされる空前の好景気に沸いていたが、08年のリーマンショックを受け、雇用の劣化は加速した。就職難を逆手に取り、新卒の若者に長時間労働を強い、残業代も支払わない「ブラック企業」が社会問題化している。

厚労省が昨年、若者の「使い捨て」が疑われる企業への重点監督を実施したところ、調査した5000超の事業所のうち約8割で法令違反があった。違法な時間外労働と賃金不払い残業が主だったものだった。

長時間労働が背景にある脳・心臓疾患の労災認定は12年度で338件、2年連続で増加している。また精神障害の労災認定件数も3年連続で過去最多を更新している。

こうした現実に対して、冒頭の長谷川ペーパーは、「長時間労働を強要するような企業が淘汰されるよう、労働基準監督署による監督指導を徹底する」ことで対応できるとしている。だが、こと労働時間規制の適用除外に関してはそうはいかない。

労働基準監督官は、企業が法定労働時間を超えて働かせることができる「三六協定」を結んでいるか、割増賃金を払っているかを調査し、されていなければ監督指導する。

「もし労働時間規制が適用除外され、それに代わる最低労働条件が法で定められなければ、監督官は取り締まりようがない」と、監督官などを組織する全労働省労働組合委員長の森崎巌は警鐘を鳴らす。Aタイプやスマートワークに最低労働条件の法定がないのは冒頭触れたとおりだ。

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