日本にとって「財政赤字拡大」よりヤバい事態 コロナ危機を脱するにはMMTを活用せよ

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足元のパンデミックが今後どのように推移していくか、予測するのは不可能だ。医療研究者は新型コロナの致死率を抑えるような有効な治療法を開発できるだろうか。ワクチンはどうだろう。この感染症を早く克服できるほど、世界経済へのダメージは抑えられる。

現時点では、日本政府高官は景気後退は深刻だが一時的なもので、2022年度には経済は立ち直っていると予測している。そうなる可能性もあるが、ならない可能性もある。新型コロナの流行が長引くほど、世界中の人々の生命と生活への打撃は大きくなる。

MMTを活用すれば、日本は

政府には魔法の杖をひと振りして危険なウイルスを封じ込めることはできないが、ほかのさまざまなダメージを抑える力は確かにある。例えば景気減速への対応として、所得を補う一律給付を実施して支出を下支えすることができる。企業に対し、人件費その他の支出を補助することもできる。

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失業した人に新たな雇用を保証することもできる。女性の労働参加を支援し、その地位の向上や報酬の改善に向けた取り組みを強化することもできる。社会のセーフティーネットを拡充して高齢者への年金給付を増やし、国民全体に老後の生活への安心感を与えることもできる。

教育、インターネット環境、病院、公的医療保険に投資することもできる。重要な製造施設を国内に呼び戻し、サプライチェーンを冗長化することもできる。次の感染症流行への備えを固めることもできる。研究機関、持続可能な住宅、電力供給網をはじめさまざまな分野に投資し、すでに進行している気候変動危機への対策に着手することもできる。いずれも経済回復のための国家戦略の一部になりえる。

日本に今求められるのは、必要とされる財政支援をすべて実施していくという確固たる決意だ。MMTのレンズを十分に活用すれば、日本はコロナショックから完全な回復を遂げ、さらに経済停滞との長い戦いにようやく終止符を打てるだろう。

そのためには新政権は財政赤字削減への執着を完全に捨てなければならない。ほかの通貨主権国と同じように、日本にとって重要なのは、政府の予算が赤字か黒字かではない。国民にとってバランスのとれた公平な経済を実現するために予算が使われているかどうかだ。

ステファニー・ケルトン 経済学者

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Stephanie Kelton

1969年生まれ。ニューヨーク州立大学ストーにニーブルック校教授(経済学、公共政策)。MMT(現代貨幣理論)の主唱者として世界的に知られる。ミズーリ大学カンザスシティ校経済学部超長を務めたのち、2017年より現職。2015年の米野党上院予算委員会で民主党のチーフエコノミストを、2016年および2020年の米大統領選(民主党予備選)でバーニ―・サンダーズス上院議員の政策顧問を務める。

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