米米CLUB「女装メンバー」の知られざる40年後 アングラ飲み屋街で抱いた「武道館」という夢

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「そういえばテッペイちゃんは、時間さえあればずーっと絵を描いていました。絵が本当に好きなんだって、それを見ながら思っていましたね。自分にとってはそれがギターであり、音楽だったんです」

ゴールデン街の飲み仲間のつてでメンバーを探し、元アイドルの女性と知り合った。聞くと、活動がうまくいかず、事務所を辞めてフリーになったばかり。年齢こそ違えど、どこか似た境遇の2人は意気投合し、バンドを組むようになった。

新たに結成したバンドのメンバーたちと(写真:博多めぐみさん提供)

「絶対売れなきゃダメだよね、武道館に行こうぜ、って合言葉のように話してます。これからメジャーになるのは大変なことだけど、最後にロックスターとしてステージに立ちたいですから。高校生のころ、自分は何のために生まれてきたのか、ってずっと考えていた時期があって。その答えはわかりませんが、目指したいことははっきり見えています」

博多さんは2019年に、母親を病気で亡くした。すでに寝たきり状態だったとき、病床でバンドの映像を見せると、母は「ボーカルの女の子がいいね」と笑顔を見せた。そして、お前は何をしても続かなかったけれど、音楽は本当に好きなんだね、と声をかけられたという。母親が残してくれたいくばくかのお金は、貯金を足してバンドのミュージックビデオ制作費に充てた。

「そのお金で立派な葬式をあげればよかったんですけど、こういう使い方がいちばんの親孝行だと思いまして。中学生のころ、ギターを買ってもらったおかげで、音楽好きになったのですから。僕がこの年になっても、真剣にバンドをしていることは、きっと母親に伝わったと思いますしね」

活動休止の今、見据える未来

バンドとして象徴的なのは、「ロックもアイドルも賞味期限がある」と掲げていること。退路を断つと同時に、過去と決別し、自分たちで新しい道をつくっていく、その表れである。「米米CLUBはよかったな……」「辞めていなかったら今ごろは……」と、未練を引きずっているヒマなどないのだ。

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2020年9月、新型コロナの影響でライブ活動ができず、資金難にも直面し、バンドは活動休止を余儀なくされた。けれど、いつか武道館を目指すという情熱や決意は薄れていない。前を向いて、できることをし、そのときが来るのを待ち続けている。

米米CLUBも会社員も、バイト暮らしも経験してきた博多さん。次はどんな景色を見るのだろう。スタートラインには、まだ立ったばかりだ。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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