職場の雑談なくなった人を襲うモヤモヤの正体 コロナ禍の孤立感で心を病み休職するケースも

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しかし、よけいな言動でハラスメントと言われたくないし、個人的なことを聞いたりするとプライバシーの侵害などと言われてしまうのではという懸念があると思います。確かに個の侵害は、パワハラの類型の1つとして挙がっています。しかし、少し間違って伝わっていることも否めません。

過度な個の侵害をうたっているのであって、必要以上に立ち入ることはよろしくないですが、例えば「休みに何をしているのか」「家族のこと」を話題に出すことが悪いことでは決してありません。

相手が話に乗ってこなければやめればいいことで、しつこく問い詰めたり、アドバイスを押し付けたりしなければ、通常のやり取りをすることに神経質になることはないのです。まじめに取り組めば取り組むほど、周りとの距離ができてしまうことは避けたいところです。

また、在宅ワーク中心になった方からのご相談では、孤立感から実際に治療が必要な深刻なうつ状態になったケースも多々見受けられます。

1人暮らしなどでは、ほかに話す人がいないことも多く、このご時世で人と会うことに制限がかかってしまうと、社交的な方でさえも引きこもる傾向にあります。業務上、頻繁に他者とのやり取りがあるものの、チャットやスラックなどの文字ツールで済ませてしまう頻度も高く、誰とも話さずに1日を過ごしてしまうなんてケースも散見されます。

孤立感から気持ちが沈んでしまい、ささいなことが気になるようになり、最終的には、上司からの指示が責められているように感じられ、連絡が来るだけで動悸が激しくなるなどの症状が出て、休職に追い込まれる方もいました。

やり取りできる場を作り「孤立」の予防を

作業環境管理は、職場の安全配慮義務でもあります。直接やり取りのできる方法を取り入れることが早急の課題で、さらには、ご本人自身でもそのような場づくりをすることが望まれます。

人は、ちょっとした気持ちや考え、起こったことや気になることを人とやり取りすることで、自分の気持ちや考えを整理しやすくなります。

長い間誰とも直接話さないと、考えがまとまらなくなったり、気持ちのコントロールが難しくなったりするのです。ですから、実際に会話のできるツールを積極的に使うということも大切です。映像が見られなくても音声だけでも、効果的です。

また、普段のやり取りが減っていると、単なる冗談と捉えられることも真に受けられてしまう可能性も高くなり、配慮が必要です。疎外感や孤立感が強いと、ストレートにものを言われただけでパワハラと受け取るケースが後を絶ちません。ゆえに、よかれと思ったアドバイスが相手を傷つけたり、追い詰めたりすることにもつながります。

こうしたことを予防していくためにも、面倒がらずにこまめに話し言葉を介したコミュニケーションを取ることと、具体的な意思表示をすることが望まれます。

緩和ムードも出始めてはいますが、元に戻ったわけではありません。ソーシャルディスタンスを保ちつつも、孤立を防いでいくことが大切です。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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