経団連次期会長の手腕、化学業界「2位」から意外な抜擢だが…

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 予想外の人選だった。1月27日、日本経団連は御手洗冨士夫会長の後任に米倉弘昌住友化学会長を充てる人事を内定。5月下旬の定時総会で正式に就任する。

米倉氏は2008年から、経団連で会長に次ぐポストの評議員会議長を務める。これまで次期会長候補の一人に挙げられてきたが、会長は副会長から選出されるのが慣例。しかも住友化学は業界2位。歴代会長は新日鉄やトヨタなど業界トップ企業から選出されており、有力視する向きは皆無だった。

同氏は化学業界では「剛腕」と称され、経済界では「国際派」との定評がある。

社内で頭角を現したきっかけは、1984年に操業した日本とシンガポールとの経済協力事業。石油化学コンビナート建設にあたり辣腕を振るった。後に、「マレーシアからの独立後、経済的自立のために産業振興に苦悶していたリー・クアンユー首相(当時)の想いに突き動かされた」とも語っている。

00年に63歳で社長に就任。三井化学との経営統合で世界5位の化学メーカー入りを企図するが、03年に破談。ところが1年後、今度はサウジアラビアで総額1兆円を投資する石油精製・石油化学合弁事業「ラービグ計画」を立ち上げる。国内外で壮大なプロジェクトを次々と繰り出し、その剛腕ぶりを見せつけてきた。今でも「70歳を超えるとは思えないほどのバイタリティ」との評が聞こえる。

海外事業を通じて欧米の化学企業トップだけでなく、政府首脳など人脈の幅を広げた。日米財界人会議では日本側の議長を務め、「国際会議での英語のスピーチのうまさには驚いた」(経団連首脳)という。また、「周囲への気配りにも長けている」(同)と、剛腕とは異なる面ものぞく。

御手洗会長はキヤノンで米国駐在の経験が長く、終身雇用など日本企業が守るべきものを訴えてきた。そのため経団連会長の就任時には、「米国流一辺倒ではない日本型の改革」が期待された。だが、政権交代で与党との蜜月関係が一転し、リーダーシップを発揮する機会は大きく減った。

新会長には新興国市場へのグローバル化推進とともに、民主党との関係構築も今後の課題となる。化学業界で培った手腕をどこまで発揮できるか。
(鶴見昌憲、石井洋平 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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