世界的な日本人指揮者の「コロナ禍での変化」 山田和樹氏「お金がない今、音楽はどうなる」

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普段は多忙で、家にいられないことが多い山田氏。しかし仕事がなくなっている間は、学校休止3日後に始まった小学校のリモート授業のために、子どものパソコン作業のサポートをしたりしていたという。もっとも、子どもが通う学校が私立で、リモート授業に対し普段から備えていたからこそできたことで、公立学校でのリモート授業の開始はもっと遅いタイミングだったそうだ。

そして、ベルリンでの「音楽のある日常」は、ベルリン・フィルハーモニー交響楽団による無観客生中継ライブによって再び幕を開けた。舞台上での“密”を避けるために、通常は100人の規模で演奏されるマーラーの交響曲4番を、数名規模の室内楽アンサンブルによって演奏。世界のクラシック音楽ファンにとって、エポックメイキングな出来事だった。

「でもそのためにはコンサートマスターの樫本大進さんをはじめとするメンバーは、リスクを最小限にするために、とても慎重に事を運びました。リハーサルと並行して、PCR検査を何度も受けた。誰かが陽性になったらその時点でコンサートもキャンセルにしようと、あらかじめ決めていたそうです。綱渡りの面もありながら実現にこぎつけたわけです」(山田氏)

パンデミックに対する「ドイツの対策」

またドイツといえば、パンデミックに対するメルケル首相の対策が高く評価されている。実際、国の人々はどのように捉えているのだろうか。

「ドイツでは今、コロナとの共存を目指して日常に戻ろうとしています。感染者数なども、大まかな流れの中で捉えていくので、国民が日ごとに一喜一憂する、ということもあまりない。行政が適切なことをしてくれている、という安心感のある中で生活できているかと思います。

それからメルケル首相が特別だったのは、真っ先に文化を支援したことです。5月9日に演説を行い、文化は国にとって大切な宝であり、まさにこうした非常事態こそ守らなければならないものであり、それを見つめ直したり、深めていくことができると訴えました」(山田氏)

山田和樹(やまだ かずき)/ 第51回(2009年)ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。パリ管弦楽団、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団など各地の主要オーケストラで客演するなど、世界で活躍。日本では日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、読売日本交響楽団首席客演指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長、学生時代に創設した横浜シンフォニエッタの音楽監督としても活動している(筆者撮影)

ドイツでは具体的には7500億ユーロ(約92兆4400億円)の予算を組み、そのうちの多くの部分を、アーティストなどへの即時支援にあてた。

なお、日本ではフリーランスなどの個人事業主に対しては、100万円を上限とする持続化給付金を支給している。その他文化庁による文化芸術活動の継続支援が7月より始まっており、例えば小規模団体や個人事業主などの共同申請者に対し上限1500万円、フリーランスなどに対し上限20万〜150万円の補助を行う。

ただし日本では衣食住に関係のない文化芸術の分野を「不要不急」と捉える世間的な見方がある。「自粛」イコール「歌舞音曲を慎むこと」と考える人も多い。東京都は多くのオーケストラが集中する世界でも指折りの文化都市だが、コンサート活動は再開されたとはいえ、聴衆は会場収容人数の半分にさえ達していない状況だ。経済的な困窮は依然続いており、「支援のお願い」として、一般に寄付を募っている。

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