宮古島の「雪塩」、訪日客戻らない前提の生き方 沖縄の観光ブランドがコロナ後にかける活路

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製塩事業の開始から20年あまり。今では海岸沿いの「雪塩ミュージアム」に年間13万人の観光客が訪れる。雇用面では、社員170人のうち、進学や就職などでいったん島を出て戻ってきた宮古出身者が120人を占めるまでになり、目的はかなえつつある。だが、過去5年ほどの間に宮古島を襲った開発投資とインバウンドの大波に、西里社長は強い危機感を覚えていた。

伊良部大橋から見渡す“宮古ブルー“の海。2015年に開通し、ホテル開発が急増するきっかけとなった=6月11日(筆者撮影)

宮古島の観光客数は2018年度、114万人となり、初めて100万人の大台に乗った。クルーズ客の増加も顕著で、同年度は24.7%増の45万4157人。小さな島の限られた観光地に団体客が大挙して訪れ、地域住民はオーバーツーリズムへの警戒感を強めた。さらに、観光需要をあて込んだ不動産開発にも拍車がかかり、住民の転居や新築需要を阻害、暮らしを圧迫していた。

「子どもの代にわたっても潤い続けられるように、短期的な投資ではない、きちんとプロセスを踏んだ発展じゃなくてはいけないと思っていた。コロナによって破裂寸前の島の経済をガス抜きしてもらった」と、西里社長は危機感と安堵入り混じる複雑な心境を吐露する。

本年度中の共用開始を目指して建設中のクルーズ船ターミナル=6月12日、市平良(筆者撮影)

既存の流通システムからの脱却

資源も規模も限られた島嶼地域にとって、持続可能な発展は永遠のテーマ。パラダイスプランが取り組んできた地元生産者を助けるもう1つの事業の柱に、西里社長のいう「プロセスを踏んだ発展」の答えがありそうだ。

山のない平坦な地形の宮古島は島全体の半分を耕作地が占め、沖縄県内の耕作地の3分の1を賄う食糧生産の島。基幹産業のサトウキビは県全体の生産量の4割に上り、野菜や果物など拠点産地作物の品目も増やしている。

機上から見下ろす宮古島の市街地と農地=6月11日(筆者撮影)

島の農作物は亜熱帯の気候ならではのおいしさや品質のよさがあるが、通常のルートでは、価格競争にさらされ、それが生産者の収入に直結する。西里社長は商品価値が「一般化」される既存の流通システムからの脱却を模索してきた。「農業を強くすること、生産者を豊かにすることが、宮古島を強くすることだ」と考えていたからだ。

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