会社組織をダメにする「中途半端なテレワーク」 現場任せの対応が「出社の同調圧力」生み出す

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こうした不安感について、「職場でのテレワーカーの比率」別に分析していく。興味深いのは、職場におけるテレワーカーの比率が1割と少ない場合には、テレワーカー側が抱いている不安感は低い。

また、テレワーカーが職場の過半数以上を占める場合も不安は同様に低い数値であった。最も評価やキャリアへの不安感が強いのは、テレワーカー比率が「2~3割」、つまり「すごく少ないわけでもないが、少数派」である職場だった。

このように、絶対的・客観的な状況ではなく、他者との相対的な状況との比較によって意識が変化することは、社会学では「相対的剥奪(Relative deprivation)」と呼ばれ、研究が進んでいる。

テレワークにおいても、「遠隔で働いている」という客観的状況ではなく、出社を始めた自分以外のメンバーとの相対的な状況の変化によって、不安を増大させることが示唆される結果だ。

確定的なことはこれだけでは言いにくいが、テレワーカーが10人に1人のような少ない状況では、自分のことを「特別な境遇」として考え、コミュニケーション機会や評価への期待値がそもそも少ないことが想像できる。ビフォーコロナ時代のテレワーカーは、福利厚生的な意味合いが強く、自他ともにこうした「特別枠」として捉えられていたテレワーカーが多かったように思われる。

まだらテレワークが引き起こす2つのバッドシナリオ

さらに属性の影響を取り除きながら分析を行った結果を見ると、組織風土としてメンバー同士のプライベートな交流が多い組織ほど、テレワーカーの不安感が「強い」ということも明らかになった。

従業員「みんな」が同じ時空間を共有することで、疑似共同体的に機能してきた日本企業は、その「みんな」に自分が含まれないときに、孤独を生みやすいということだ。「みんな仲良し」の会社や組織は、テレワークにとっては両刃の剣だ。

こうした「まだらテレワーク」状態に突入した組織にとって、今後のバッドシナリオは2つある。1つは、こうした相対的な剥奪感に耐えきれず、出社をしているメンバーの同調圧力に屈するように、不要な「出社」が増えていくことだ。

まさに「オールド・ノーマル」の強さを証明するように、満員電車に不満を口にしつつ、テレワークでもできた仕事を会社でするようになるだろう。新型コロナウイルスの感染リスクの観点からも、テレワークの定着阻害の観点からも避けたいシナリオだが、可能性は高い。

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