望まない妊娠に直面する若者に今必要な性教育 コロナ禍で露呈した周回遅れの日本の教育

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1980年代にエイズが世界的に流行したことにより、日本でも1990年代に性教育の流れが到来し、1992年に学習指導要領が改定された。小学5年生で保健の教科書が登場し、文部省(当時)は「学校における性教育の考え方、進め方」という手引書まで作成した。

しかし、2000年代初頭から日本の性教育は停滞、後退する。性教育の全体像を見ずに、一部の表現だけを切り取って性教育バッシングする人たちが現れ、国を巻き込んだ動きとなったためだ。これにより、授業では性交やコンドームのつけ方などについて、教えづらくなった。子どもたちの性行動が活発になる前に正しい性教育を、という国際的な動きと完全に逆行することとなる。

「とは言っても、中学校、高校では、妊娠する生徒がいたり、卒業後すぐの妊娠報告にその後の将来を気にかけている教員もいる。そのため、指導要領の範囲を超えた内容の講演をピルコンに依頼してくる学校も少なくない」(染矢氏)のが実情。子どもたちの身を守るために、一部の大人たちはより危機感を強めていた。

将来困ったときのためでもある

実際、かつて10代の人工中絶率が全国平均よりも高かった秋田県では、1999年にモデル授業として性教育派遣講座がスタートし、秋田県医師会でも2003年に性教育プロジェクト委員会を立ち上げた。専門家による性教育の結果、2007年には10代の中絶率が全国平均を下回るようになった。

東京都内のある区立中学校でも、生徒たちを望まない妊娠から身を守るため「性交」「避妊」「中絶」などを扱った授業を展開。ところが2018年、この性教育の授業が不適切だと都議が指摘し、東京都教育委員会でも問題となる。

しかし、この一件が発端となり、各校へのアンケート調査を実施したところ、現場から学習指導要領を超えた教育の必要性が浮き彫りになった。そのため、東京都教育委員会では翌2019年に現場のマニュアルである『性教育の手引』を改訂。これにより、保護者や学校全体の一定の理解など、一定の要件のもと、学習指導要領の範囲を越えた授業を行うことができるようになった。

染矢氏曰(いわ)く、「性教育を受けることで、今は困っていなくても、将来困ったときに、適切な情報や医療機関に早くたどり着けるようになることは大きなメリット。中高生を対象にした性教育の講演の事前アンケートで性についての理解度は大体3〜4割程度、それが講演後には7割くらいまで正答率が上がり、『知ることができてよかった』という声も多い」。

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