コロナ「院内感染」現役看護師が味わった苦しみ 対策のない医療現場で命を懸けながら働いた

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さらに致命的だったのはマスクや使い捨て手袋、手指消毒薬など感染対策の医療物資の不足だった。4月中旬にはマスク1枚を1週間使い回すこともあった。使い捨て手袋はそのまま手洗いして何度か使い回す。

個人で保管していた家のマスクを持参するスタッフも増えた。

すでに院内における標準予防策の履行が困難になっていた。「これではコロナ以外の病気だって蔓延するんじゃないか」と看護師同士でも話題になった。その頃、多くの著名人が「医療施設を支援します」「マスクを○○枚送りました」「○○円寄付しました」と発言していたが、「それっていったいどこに行っているのか……」と思っていた。

小さな個人病院がある日突然クラスターに

意外にも、最初に新型コロナウイルスの陽性反応が出たのは外来からではなく、病棟からだった。

コロナ感染者を受け入れている大病院から、1人移ってきた患者が夜に発熱。その後、体調を崩すスタッフが続出した。そこでその患者にPCR検査を受けてもらったところ、陽性反応が出た。その患者は検査結果の出た当日に死亡退院となった。スタッフも急いでPCR検査を行うと、看護師2名がコロナ陽性と診断。5月上旬には、別のスタッフや患者さんからも陽性反応が出て、ついには病棟の階が違う患者さんからも陽性反応者が出てしまった。

陽性反応者が複数出たフロアのスタッフは全員「濃厚接触者」として自宅待機に。スタッフが減っても入院患者はいるので、外来担当の看護師が病棟に回され、グループ病院から看護師がヘルプで来た。

コロナ陽性判定が出た患者は、その日のうちにコロナ感染者受け入れ病院に転院。病院は外来と入院受付をストップし、関係者以外は立ち入り禁止となる。

そしてドクターから、約40名の入院患者、およびご家族へ「病棟でコロナのクラスターが発生したこと」の連絡がされた。

水木さんが患者に院内でコロナが発生したことを伝えると「まさか、この病院で! 私たちも感染する可能性ありますよね?」「感染したくないです! どうしたらいいですか」という不安の声や、「家族に迷惑かけたくない」という家族を配慮する声が届いた。水木さんは「ご心配をかけてしまい申し訳なかったと思います」と振り返る。

次ページ家族から寄せられた心配や怒りの声
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