"PCの負け組"あのAMDが苦境を脱却? グローバル事業統括リサ・スー副社長が語る新戦略

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――ゲーム用半導体では、AMDのシェアが拡大しています。

ゲーム分野は、AMDの戦略でコア部分を占めている。家庭用ゲーム機向けビジネスでマイクロソフトやSCE、任天堂と取引できたことは大変ラッキーだった。AMDのゲーム用半導体は、顧客ごとの設計仕様に対応するセミカスタムで作り込むことができる。顧客にとっては差別化ができると同時に、AMDの知的財産を使って高度なグラフィックス処理が可能になる。そこが強みだ。

――2006年に54億ドルでATI社を買収した。これによりゲーム関連ビジネスの拡大につながりましたか。

Dr.Lisa Su AMD上級副社長兼グローバル事業部統括 MIT(マサチューセッツ工科大学)電気工学部で博士号取得。米テキサス・インスツルメンツや米IBMで半導体開発に携わり、米フリー・スケールセミコンダクタの上級副社長兼事業部総括を経て12年1月より現職。テキサス州オースティン在住。

確かにグラフィックス技術において、ATI社の買収は重要だった。当社が2011年に発表した半導体「APU」では、CPU(中央演算装置)とGPU(画像処理)を1チップ化している。通常は1チップ化は難しいのだがATI社の買収から5~6年を要して両方の強みを同等に扱えるようになり、マイクロソフト「Xbox One」、SCE「PS4」の双方でAPUが採用されるに至った。

APUのコンセプトは2011年にスタートしたばかりだが、5年先、10年先にわたって非常に重要なアーキテクチャになると考えている。これまでも毎年改善を重ねており、いずれは可視化などの現象に対応できるようになる。PCやゲーム、プロ用グラフィックス、エンタテイメントのいずれにも重要な技術になってくるだろう。

――ライバルとの差別化は、どう考えていますか。

たとえばインテルはCPUに特化し、グラフィック半導体大手の米エヌビディアはGPUの画像処理性能の向上にそれぞれ注力している。しかしAMDは、その2つの半導体をAPUで最適に1チップ化できた唯一のメーカーだ。

将来の成長を考えると、今後5年間でIoT(Internet of Things=モノのインターネット化)が大きなチャンスになる。あらゆるモノがネットにつながることでAPUはゲーム分野だけでなく、組み込みシステムの拡大も期待できる。たとえば会議室のモニターなども、声やジェスチャーで起動できるようになるだろう。

――自社で強い技術を持っていないと大手メーカーの下請けになる心配もありそうだ。

その通りだ。私たちは、単に50セントでマイクロコントローラーを販売するような一般的なサプライヤーになりたいわけではない。カスタム製品を扱う組み込み事業では、どこで差別化できるかが重要になる。

APUはプロセッサとグラフィックスを高いレベルで統合しているため、組み込み製品の領域でも差別化できる。たとえば将来的なアプリケーションでは、6つのディスプレイを同時に駆動できるようになる。ディスプレイが360度を取り囲み、全方位から音が聞こえる環境を創り出すことができる。あくまでも1つの例にすぎないが、画像とコンピュータの体験に特化した技術で差別化したい。

――PC向け中心だった商品群を増やしていくことで、今後は開発リソースが分散して収益が悪化するリスクがあるのでは?

これまでビジネス戦略について語ってきたが、エンジニアの戦略自体も変わっている。以前のAMDは、1製品にリソースを集中して最適化を行う戦略を採ってきた。しかし世界中のアプリケーションが多様化し、標準品とカスタム品の双方でさまざまな製品が必要となっている。それに対応するために、エンジニア戦略は柔軟にする必要性がある。社内の知的財産を複数製品で活用することが事業多様化を実現する大変重要なカギとなるし、長期的に高い収益性を実現できるようになると考えている。

――エンジニアに求められる要素は変わってきていますか。

PC向けCPUの場合は、処理性能を上げることがもっとも重要だった。しかし今や、もっとも成長している領域はシステムを重要視している。たとえばiPhoneがどうしてこんなに成功したかを考えると、CPUの性能が優れているからでなく、アプリケーションが貢献しているからだ。今後5年間は同じ傾向が続きそうなので、もっと顧客体験を変えられるようなテクノロジーを開発していく。その延長線上で半導体市場の成長に貢献できると考えている。

(撮影:梅谷秀司)

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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